Best My Friend 1日目−4−




 藍色の袴の彼は二条城にいた。
 夜も遅いこんな時間に入ることは出来ないのだが、彼は入っていた。
 桜が咲いている。いや、もう満開を通り過ぎ、散り始めている。

「聞きたいことがある」

 おもむろに彼が口を開き、目の前の桜に話しかけた。
 話しかけられた桜の木から、ふわりと淡く光る女性が現れた。

『あらぁん、かわいらしい男の子ねぇ。何が聞きたいのぉん』

 女性−−−桜の精霊は悩ましい声で聞いた。
 彼はその声に少々退いたが、無理やり戻して、言った。

「この辺りで梅の咲いている場所を知っているか。知っているなら教えてほしい」
『梅ぇ? さぁ〜知らないわぁん』
「それじゃ、植え替えられた樹は何処に行くかわかるか?」
『まぁ怖いこと聞くのねぇ。そっちは知りたくもないわぁ』
「そうか……」

 深い溜め息をつく。

『そうねぇ……賀茂川堤にたくさんの仲間がいるから、行ってみたらいいわぁん』
「賀茂川堤?」

 笑顔でうなずく桜の精霊。

『そお。賀茂川に沿ってある土手よぉ』
「ありがとう」

 彼は意外に素直に礼をいった。

『いいわよぉん。それはそうと、あなた。何か近いものを感じるんだけどぉ……もしかしてあなたも精霊?』

 桜の精霊に背を向け、歩き出していた彼が歩みを止めた。

「どうだろうな」

 背を向けたまま答え、また歩き出した。そして、夜の闇に消えた。




To be continued