Best My Friend 1日目−5−




 きゃーきゃー声が響く女子浴場。

「大丈夫なの、お風呂」

 めぐみは心配そうに右近に聞いた。種族の違いが生む疑問の一つである。しかし、当の右近は平然と、そして、少々迷惑そうに答えた。

「も〜心配しすぎ。大丈夫だってば」
「先、行ってるよ」

 一足先に聖が浴場へ向かう。

「待ってぇ〜!」

 めぐみと右近は急いで服を脱ぎ、浴場へ向かった。
 女子が使用する浴場は露天風呂付きだった。ちなみに、男子の浴場には露天風呂はない。

「ほぇ〜〜〜いいお湯〜〜」
「あれ? 右近ちゃんは?」
「あそこ〜」

 極楽気分になっていためぐみが指さすところに、おそるおそる湯船に足をのばす右近がいた。

「ん?」

 聖が何かに気がつく。
 それは、右近の左足にある一筋の傷だった。

「う〜わ〜痛そ〜〜」
「何が?」

 湯船に無事入ることの出来た右近が近づいてきた。

「足の傷〜。もう痛くないの?」
「……うん……」

 右近は両足を抱え込む。

「あ……もしかして、変なこと聞いちゃった? それならごめんね!」

 そんな右近を見た聖が謝った。
 右近は驚いた顔をし、手と首を振りながら、聖の言葉を否定した。

「そんなことないよ! だからっ謝らないで!!」

 「ありがとう」というように聖が微笑んだ。

  (左近のことがからんでんのかなぁ……)

 めぐみは口までお湯につかりながらそう思った。





 入浴、班会議を済ませ、みんなで布団を敷いた。この狭い部屋に6組の布団を敷くというのは一種のパズルのようだった。
 敷き終わったら、それぞれが寝る仕度を始める。あるものは寝具に、あるものは歯を磨きに洗面所へ、また、あるものは仕度を既に終え座って外を眺めていた。

「綺麗……」

 ぽそっと呟く。右近は夜景を見るのはこれが初めてだった。

「そーだね。明日は何処行ってみる?」

 明日の自由行動をめいいっぱいつかって左近を捜そうと考えているのだ。
 実は既に見学コースは事細かに決めてあった。が。それを実行すれば左近を捜す範囲が狭くなってしまう。それなら、計画を無視し、右近の望むところに行く方がいいと考えたのだ。必ず通らなければならないチェックポイントさえ行ければあとは大丈夫だろうと悪知恵も働いた。一緒に計画を決めた聖には明日言おうと思っている。

「う〜んと、円山公園に行きたい。あそこには左近の仲間がいるらしいの。行ってるかもしれない」
「うん。わかった。明日のためにもさっさと寝ようか」
「……うん」

 頭あわせに敷かれた布団の真ん中と右端にそれぞれめぐみと右近がもぐりこむ。聖と他の3人も既に自分の布団をとっていた。





 消灯後、修学旅行の女子部屋で必ずと言っていいほど行われる「恋愛談話」がこの部屋でも始まったが、見回りに来た先生の「早く寝ろーーー!!!」という声に終止符を打たれ、日付が変わる頃にはみんな、夢の世界に落ちていった。










              来ぬ人を まつほの浦の
                    夕なぎに 焼くや藻塩の
                              身もこがれつつ         藤原定家



To be continued