腕の中のぬいぐるみ




「っくしゅ。……ん」

 微かに身震いをして、デンジは目を覚ます。
 覚醒時のくしゃみは、ほんの少しの寒さからだが、同時にどこか遠くで噂をされたようにも感じた。
 ぼんやりとした目は、暗い室内でただ一つ発光している物体を捕らえる。真っ正面に置かれている大型テレビは、青色の画面を映していた。
 彼が状況を把握しようと寝る前の記憶をめぐらせると意識が浮上し、膝の上に何かの重さを感じた。

「チマリ……?」

 視線をそちらに落とすと、ピカチュウの耳が見えた。
 ピカチュウの着ぐるみを着たチマリは、身体を支えているデンジに完全に身体を預けて眠っていた。
 テーブルの上には、ジュースの入ったペットボトルやお菓子の袋が散らかっている。さらに、床周辺には赤いアフロが転がっていた。

「ああ……」

 そこでデンジは理解した。
 チマリが友達から恐怖映画のDVDを借り、遊びに来ていたオーバと鑑賞会をしていたのだった。
 もともと、オーバはソファを背もたれにして床に座っていた。けっしてソファから落ちて、床に転がっているわけではない。
 些細な演出にもチマリはキャーキャー騒ぎながら見ていたのだが、デンジは途中で眠ってしまったようだ。それは他の二人も同じようで、DVDの停止画面をテレビは映し出していた。
 このままではいけないと、チマリを起こしかけるが、

「……まぁいいか」

思い直して、やめた。
 デンジの袖を掴みながら、穏やかな寝顔を浮かべる少女を起こしてしまうのは、なにとなく忍びない。

「デ、ンジ……」

 自分の名前を呼びながら、チマリは笑う。
 テレビの方を向いていた身体を動かし、デンジに抱きついた。
 そんな様子に、デンジの胸がほんのりと温かくなる。
 自分を慕うこの幼子は、時折大人びた物言いをするが、寝姿は可愛らしい。
 今更ベッドに移動するのも面倒で、デンジは床に落ちているタオルケットを拾い上げた。このタオルケットは、DVDを見ていたときにチマリが持っていて、怖いシーンで顔を隠すために使われていた。
 チマリを抱きかかえたまま、ソファに横になる。幅は二人引っ付いた状態で、ぴったりだった。タオルケットを掛けて、目を閉じた。

「……ぬくい」

 幼い子供は体温が高く、着ぐるみの生地と相まってまるでぬいぐるみを抱いているような心地がした。
 デンジが顔を寄せるとどこからか甘い香りがし、彼の眠りを誘った。





「デンジーおきてー」
「……」

 少女特有の高い声と共に、ゆさゆさと揺らされるデンジの身体。抱えていたはずのチマリは、いつの間にか腕の中から抜け出ていた。

「オーバがへんな手紙のこしてったー」
「……なに」

 顔に紙をくっつけられ、デンジが目を覚ます。

『ロリコンリア充爆発しろ!!』

 受け取った紙にはオーバの書き殴った文字で、そう書かれていた。



end





 突如降臨したデンチマ熱に浮かされて、書き上げました。
 青年と幼女の組み合わせって良いよね!!ほのぼので良いよね!!

2013/12/29 発行
2014/05/27 pixiv公開
2017/06/01 web公開