役得 −「toi et moi」episodeU ex−




*ちょっとご注意*


このお話は、冬コミ新刊「toi et moi」に収録している「episodeU」の途中に入れようと思っていたお話です。

話の前提として。
 ツワブキ社長の名代としてカロス地方のパーティに出席したダイゴさん。
 シロナさんはそれに付き合わされました。
 そのお役目を終え、お部屋で二人飲み直しています。

この辺りを頭に入れていて頂ければ、これ単品でも読めます。





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 ルームサービスで頼んだカナッペとワインが無くなる頃、シロナの口数が極端に減った。
 シロナは空いたグラスをテーブルに置くと、ダイゴの肩に寄りかかり目を閉じる。

「シロナさーん。寝るなら、自分のベッドルーム行って寝なよー」
 ダイゴは腕をまわし、むき出しになっている彼女の肩をぽんぽんと叩く。身体がほんのりと温かいのは、眠気とアルコールで火照っているからだ。

「んー……化粧落として、シャワー浴びて、着替えて……」

 うっすらと目を開けた彼女は、やることを指折り数えているが、

「めんどぅ……」

パタン、と腕が落ちてしまった。

「ああ、もう……。はい、しっかりしてください」

 力の抜けつつあるシロナをソファに寄りかからせる。
 今までの疲れが重なって、余計に酔いがまわりやすくなり、眠気を感じているようだった。無理に付き合わせてしまったかと、ダイゴはほんの少し後悔する。

「ん」

 突然、シロナがダイゴに向かって両腕を広げた。

「ん?」
「ベッドで寝ろと言うならー、ダイゴ君が連れてってください」
「はい?」

 意外な一言に一瞬、面食らったダイゴだったが、すぐに柔和な笑顔を浮かべる。

「承知しました、女王様」

 伸ばされたシロナの腕を自分の肩にかけ、シロナを立ち上がらせた。

「お姫様抱っこじゃないのね」
「僕だって同じくらいの量飲んでるんだから、無理です。落としたら怒るでしょ、シロナさん」

 クスクス笑うシロナは、相変わらず上機嫌だった。彼女の足取りは思いの外しっかりとしている。酔いよりは眠気が勝っているのだろう。

「はい。着きましたよ」

 程なくして、ベッドルームに到着する。二人ベッドに腰を下ろし、シロナはそのまま後ろに倒れ込んだ。
 彼女が使っているのはクイーンサイズのベッドがある部屋で、ダイゴはダブルサイズのベッドが二台ある部屋を使用している。

「せめて、化粧は落とさないと。明日の朝、大変になるのはシロナさんだよー? 知らないよー?」
「うんー……」

 生返事はするものの、彼女が身体を起こす気配はない。
 シロナの手がまとめていた髪のゴムを引き抜くと、金糸が広がった。目を閉じたまま、もそもそとベッドに乗り、寝る位置を探している。

「……ほんと、あなたは僕のことをどう思ってるんだろうね」

 ダイゴは両手をつき、振り向きながらシロナの様子を観察していた。
 この状態では、いくら言ったところで聞かないだろう。
 シロナは具合のいい場所を見つけたようで、動きが落ち着いた。

「ある意味役得ではあるけど」

 豊かな金髪と黒色のドレスをベッドに広げ眠る華の姿は、一枚の絵画に思えるほど、美しい。
 プラチナブロンドに触れられるのは、限られた人間のみ。そのうちの一人にいることが、単純に嬉しい。
 もし自分が警戒されているのなら、こんな無防備な姿は晒さないだろう。そもそも、ベッドルームが違うとはいえ、異性と同じ部屋に泊まろうとは思わないはずだ。

「あんまり油断してるよと、襲っちゃうよ?」

 ネコのように丸まった体勢のシロナ。座ったままダイゴは覆い被さるように手をついて、右手で頬を撫でる。
 不穏な言葉を吐いてはいるが、音は優しさだけが含まれている。本当に実行する気はゼロに等しい。

「……ダイ、ゴ君」
「ん? 起きる気になった?」

 シロナは寝返りを打ち、仰向けになる。動かされた手は、彼女の顔の横についているダイゴの手に触れた。
 ぼんやりと目を開けた。

「私……スケジュール空けてまた……来るわ。だから、キミも……開けときなさ……い。キミとなら……楽しぃ…もの……」

 途切れ途切れにシロナが言葉を紡ぎ、ふわり微笑んで目を閉じてしまう。それっきり、規則正しい呼吸を繰り返し始めた。

「……仰せのままに」

 聞こえないと思いつつも、ダイゴは嬉しそうにため息混じりに呟いて、触れていた手を取る。そして指と、少し間をおいて、手首の内側に口付けた。



end






 新刊からはみ出て没にしたものではなく、新規で無配用に書き起こしました。
 どうにも、私の中のダイゴさんはキス魔なようです。
 ちなみに場所によるキスの意味ですが、手首は欲望、指は賞賛です。

2013/12/29 発行
2014/05/27 pixiv公開
2017/06/01 サイト公開