役得 −「toi et moi」episodeU ex−
*ちょっとご注意*
このお話は、冬コミ新刊「toi et moi」に収録している「episodeU」の途中に入れようと思っていたお話です。
話の前提として。
ツワブキ社長の名代としてカロス地方のパーティに出席したダイゴさん。
シロナさんはそれに付き合わされました。
そのお役目を終え、お部屋で二人飲み直しています。
この辺りを頭に入れていて頂ければ、これ単品でも読めます。
*・*・*・*・*・*・*・*・*・*
ルームサービスで頼んだカナッペとワインが無くなる頃、シロナの口数が極端に減った。
シロナは空いたグラスをテーブルに置くと、ダイゴの肩に寄りかかり目を閉じる。
「シロナさーん。寝るなら、自分のベッドルーム行って寝なよー」
ダイゴは腕をまわし、むき出しになっている彼女の肩をぽんぽんと叩く。身体がほんのりと温かいのは、眠気とアルコールで火照っているからだ。
「んー……化粧落として、シャワー浴びて、着替えて……」
うっすらと目を開けた彼女は、やることを指折り数えているが、
「めんどぅ……」
パタン、と腕が落ちてしまった。
「ああ、もう……。はい、しっかりしてください」
力の抜けつつあるシロナをソファに寄りかからせる。
今までの疲れが重なって、余計に酔いがまわりやすくなり、眠気を感じているようだった。無理に付き合わせてしまったかと、ダイゴはほんの少し後悔する。
「ん」
突然、シロナがダイゴに向かって両腕を広げた。
「ん?」
「ベッドで寝ろと言うならー、ダイゴ君が連れてってください」
「はい?」
意外な一言に一瞬、面食らったダイゴだったが、すぐに柔和な笑顔を浮かべる。
「承知しました、女王様」
伸ばされたシロナの腕を自分の肩にかけ、シロナを立ち上がらせた。
「お姫様抱っこじゃないのね」
「僕だって同じくらいの量飲んでるんだから、無理です。落としたら怒るでしょ、シロナさん」
クスクス笑うシロナは、相変わらず上機嫌だった。彼女の足取りは思いの外しっかりとしている。酔いよりは眠気が勝っているのだろう。
「はい。着きましたよ」
程なくして、ベッドルームに到着する。二人ベッドに腰を下ろし、シロナはそのまま後ろに倒れ込んだ。
彼女が使っているのはクイーンサイズのベッドがある部屋で、ダイゴはダブルサイズのベッドが二台ある部屋を使用している。
「せめて、化粧は落とさないと。明日の朝、大変になるのはシロナさんだよー? 知らないよー?」
「うんー……」
生返事はするものの、彼女が身体を起こす気配はない。
シロナの手がまとめていた髪のゴムを引き抜くと、金糸が広がった。目を閉じたまま、もそもそとベッドに乗り、寝る位置を探している。
「……ほんと、あなたは僕のことをどう思ってるんだろうね」
ダイゴは両手をつき、振り向きながらシロナの様子を観察していた。
この状態では、いくら言ったところで聞かないだろう。
シロナは具合のいい場所を見つけたようで、動きが落ち着いた。
「ある意味役得ではあるけど」
豊かな金髪と黒色のドレスをベッドに広げ眠る華の姿は、一枚の絵画に思えるほど、美しい。
プラチナブロンドに触れられるのは、限られた人間のみ。そのうちの一人にいることが、単純に嬉しい。
もし自分が警戒されているのなら、こんな無防備な姿は晒さないだろう。そもそも、ベッドルームが違うとはいえ、異性と同じ部屋に泊まろうとは思わないはずだ。
「あんまり油断してるよと、襲っちゃうよ?」
ネコのように丸まった体勢のシロナ。座ったままダイゴは覆い被さるように手をついて、右手で頬を撫でる。
不穏な言葉を吐いてはいるが、音は優しさだけが含まれている。本当に実行する気はゼロに等しい。
「……ダイ、ゴ君」
「ん? 起きる気になった?」
シロナは寝返りを打ち、仰向けになる。動かされた手は、彼女の顔の横についているダイゴの手に触れた。
ぼんやりと目を開けた。
「私……スケジュール空けてまた……来るわ。だから、キミも……開けときなさ……い。キミとなら……楽しぃ…もの……」
途切れ途切れにシロナが言葉を紡ぎ、ふわり微笑んで目を閉じてしまう。それっきり、規則正しい呼吸を繰り返し始めた。
「……仰せのままに」
聞こえないと思いつつも、ダイゴは嬉しそうにため息混じりに呟いて、触れていた手を取る。そして指と、少し間をおいて、手首の内側に口付けた。
end
新刊からはみ出て没にしたものではなく、新規で無配用に書き起こしました。
どうにも、私の中のダイゴさんはキス魔なようです。
ちなみに場所によるキスの意味ですが、手首は欲望、指は賞賛です。
2013/12/29 発行
2014/05/27 pixiv公開
2017/06/01 サイト公開