欠片




 彼がいない。



 ほんの数分前に、確かにここにいると言っていたのに。

 今、単独で動くのは危険だと彼だってわかっているはず。



 なのに。



 不安になって、気配を消しつつ辺りを見回す。


 少し遠くに姿を見つけた。





「アッシュ!」



 走ってきた勢いのまま、身体ごと突っ込まれる。

「何処行ってたんスか!? 心配したッスよ」

 身体を引き離し、顔を見つめる。
 紅い単眼が嬉しそうに細められた。

「見つけたんだ。これで道が開ける」

 握っていた手を広げる。
 そこには一片のガラス。……いや、鏡の欠片か?

 鋭い破片を握り締めていたせいか、彼の掌の包帯には紅い染みが出来ていた。





「アッシュ、よく聞いて? これは希望の欠片なんだ」





 不思議に思い、欠片に手を伸ばす。
 その瞬間、思いっきり手に押しつけられた。微かに痛みが走る。

「通常の通路は閉じられているけど、これを使えば帰れる。
 あっちには彼らがいる。きっと力を貸してくれる。
 今だって、一番いい方法を考えてくれてるはずだから」

 彼は続ける。

「でも、これはここでは使えない。破片じゃ力が弱すぎる」



 辺りを気にしながら。



「この先に海があるんだ。そこがあっちに一番近い。そこからなら小さな力でも帰れる」
「それなら! 早く行きましょう!」

 彼の手を欠片ごと握り、走り出そうとするが、彼は動かない。





「……二人は無理なんだよ」





 呟く声。



「小さすぎる。それに……それを探しに行ったとき、奴らに気づかれた。奴らはボクを追ってる」
「それなら、これ、スマが使ってくださいッス!」



「ボクが走るよりキミの方が速い。言ったろ? これは希望なんだ」






「ボクがここで奴らの足止めをする。まかせて、奴らはボクの殺し方を知らない。だから、大丈夫」





 腕を引き寄せ、抱きしめた。

「…………知っていたら?」







「…………また逢えるよ」



 その言葉に彼の決意を知る。
 全てを託された。





「お守りッス。持っていて」

 手渡したのはボディピアス。
 彼は自分の耳に手を伸ばす。



「ありがと。これはボクから再会のしるし」

 金色のピアス。
 互いに身につけていたものの交換。





 もう一度きつく抱きしめあって。





「必ず。必ず戻ってくるッス。だから」
「信じてるよ。だから、ボクは大丈夫なんだ」

 身体を離して、

「ボクが見つかるのも時間の問題。さぁ早く行って」

 力強くうなずいて、彼に背を向ける。









「バイバイ、アッシュ」









 その声を、聞いた。












−−−−−−−−−−

壊れ始めたこの世界に
君を置いて行けない
けれど 君はそれを許してくれなくて

僕の手には
希望と君の欠片
必ず帰ってくると約束を残し
僕は走り出した

この先の運命が決まっていたとしても
僕は必ず君を捜し出してみせるよ
だから
この世界で待っていて
僕の欠片は君に渡したから




end





「欠片」、「世界(地球)の終わり」、「追いかけられる、逃げる」をテーマに
何か書きたくてノリで書いた話。
なので、設定も何もないです。雰囲気で読んでください。

アッシュとスマしか出てませんが、
カップリング要素はかなり薄い……はず。
これでもダメな方がいらっしゃったらごめんなさい。
抱き合ったりしてますが、スキンシップということで!
これが最後って事を二人ともわかっているでしょうし。

鏡云々は私の2Pキャラ設定に関わってくるものなのですが
……まだ幾分曖昧な点が多いので。

2003/09/22