ラスネール
アッシュがスマイルの部屋に来てみると、珍しいものが落ちていた。
それは−−−紙。
ただの紙ではなく、何かが書き込まれている。
走り書きの文字とそれを消すような線。
「……永遠、秘密、愛、悪魔……?」
一見、なんのつながりもない単語の羅列。
「もしかして……!」
アッシュはこれがなんなのか、わかった気がした。
「アッシュ? 人の部屋で何してんの」
この部屋の住人が顔を出す。
「あ! おかえりなさいッス! 掃除をしようと思って……」
「その紙は?」
アッシュの手を指さし、問う。
「あっ! これは……落ちていてっ……何か書いてあって、それが目にはいってっ……!」
あたふたと身振り手振りで説明する。
「あのっ!! これって歌詞ッスよね!? 新曲ッスか!?」
話を無理やり変えて、きらきらとした表情で言った。
「ん〜……そうだねぇ……」
スマイルの答えは曖昧。
「ユーリにさ、作れって言われたからさ。てきとうに言葉書き出していったの」
「じゃあ、新曲ッスよね。真面目なスマの歌、聞くの久しぶりだから、楽しみッス」
アッシュから紙を受け取り、目を移す。
「テーマとかあるんすか?」
「テーマねぇ……」
ベッドに腰を下ろす。
「強いて言えば? ボクを好きになってくれた子たちに捧げる『鎮魂歌』ってとこかな〜」
ニカッと笑顔を向ける。
その笑顔からアッシュは何も読みとれなかった。
「鎮魂歌……ッスか。スマらしいッスね」
「そう?」
−−−−−本当はね、ユーリから苦情がきたから、無理やり書いてみたり。
「アッシュ」
側へ来るように手招きする。不思議に思いつつも、スマイルの前に立った。
そして、腕を伸ばされ……
「えっ? スッ……スマ!?」
首に腕をまわし、抱きついてきた。
焦るアッシュをよそに、スマイルはさらに抱きしめる力を強める。
「……スマ?」
「出来たら聞きたい? この歌、聞きたい?」
「そりゃ、聞きたいッスよ。スマが好きな子たちのために作った歌、ですから」
何かを不安に思っているスマイルを優しく抱きかえす。
なだめるように、安心させるように。
「…………そっか」
すっ、と腕をはずして、再びベッドに座り込む。
「ごめんね? これの続き思い浮かんだから、掃除あとにしてもらえる?」
「え……あ……わかったッス。頑張ってください」
手をふりながらアッシュを見送る。
「あとで何か持ってくるッス」と残し、扉が閉まった。
アッシュが立ち去ったあと、まじまじと走り書きだらけの紙を見つめた。
「『命を愛でるなど嘘だ アレは命を蝕む悪魔』」
笑いがこみ上げてくる。
自分で自分を「悪魔」など言う。
まして、自分は「透明人間」という妖怪なのに。
ふと、ユーリとのやりとりを思い出した。
* * *
『過去の清算はちゃんとしておけ。今さら出られたら、こっちが迷惑だ』
『……どうすればいい?』
『彼女らのために歌え。歌には鎮魂の効果がある。まして、お前の声は……』
『「アレ」で歌えって? ダメだっていってたじゃん』
『時と場合によるだろう? 今回はそれが得策だと思う』
『…………イマイチのらないんだよねぇ。だって、あの子たちがいいって言ってくれたから、ボクはそれを実行したまで。それを今さら?』
『人は常に心を変える生き物なのだよ。愛情を憎しみに変換させるのは造作もない』
『……だから信じられないんだ』
『とにかく。何故か被害は私にきている。解決策は鎮魂歌を作り、歌う。いいな』
『努力してみるよ』
* * *
努力した結果はこれ。
鎮魂歌……かなぁ?
逆に煽ってる気がしなくもないんだけど。
「『また気づかぬふりをしなくては 綺麗事を並べ立てよ』」
でもね、これは事実。
怖いから。
全部知られて、嫌われるのが怖いから。
ユーリにはいくつか話したけど、やっぱり話してないことの方が多い。
「……まだ知らないで」
きれいな歌詞(言葉)に隠された、本当の事実を。
付けた名前は「ラスネール」
昔の映画に出てきた詩人の殺人鬼の名前。
それに自分を重ねて。
さぁ歌おう。秘密のパーティで。
ボクに魂を捧げてくれた彼女らの、鎮魂のために。
end
ee'MALL 緑スマ担当曲「ラスネール」をイメージした話です。
雰囲気で読んでください。
実はこれを書いていたのは6月頃で、途中で放ってました。
続きが思い浮かばなかったのです。
最後の方にある「昔の映画に出てきた詩人の殺人鬼」は、
「ラスネール」をYahoo!検索したら引っ掛かったものです。
「詩人」で「殺人鬼」というところがっぽいなーとか。
2003/10/07