オッドアイ




 ひっろいお城の中にある、これまたひっろいリビングに、ボクとポエちゃん二人きり。
 アッシュ君はお洗濯、ユーリはお仕事。せっかく、ポエちゃんが来てくれたっていうのにもったいないね。
 ポエちゃんの真っ正面に座ってるけど、何も話さずただフィギュアを手入れするボクのことを見てる。
 興味あるのかな? ギャンブラーZ。
 なんか気になって声をかけてみる。そしたら、

「ん〜……スマイルさん、いつも左目隠してるよね。どうして?」

と、聞いてきた。

 どうして。
 どうしてかぁ。

「左目、見せて?」

 わ、直球だね〜。
 ボクはいつもの笑顔で答える。

「見てもがっかりするだけだよ〜?」
「それでも、いい」

 なぁ〜んか、あの人に似てきたね。ダメだよ、ポエちゃん。
 まぁ、別に隠すようなものじゃないし、ユーリもアッシュも知ってるからいいんだけど。

 ポエちゃんのじっと見つめる目。この目、前に「太陽」って言ってたよね、ユーリ。光を象徴する金の太陽。でも、月も金色じゃないかと思うんだ。だって、あんなに黄色い月は銀に見えないよ。

 さて。

「じゃ、見せたげる。特別だよ〜? ヒッヒッヒ〜」

 首から包帯をはずしていく。
 期待してるのがよぉ〜くわかる。でも、本当にがっかりするだけだよ。だって……。
 いつの間にかポエちゃんはボクの隣にいた。

 そんなに間近で見たい?

「ど?」

 驚いてるのかなぁ〜? 何も言ってくれない。

「……ポエットと同じ目だぁ!」

 ポエちゃんの嬉しそうな笑顔。

 あ。

 ……そういえば、そうだったっけ……。「太陽」の目をボクも持ってたんだ。

「何でいつも隠してるの? こんなにキレイなのに……」

 「キレイ」じゃないんだよ、これ。

「ん〜……隠してても隠してなくても同じだからねぇ〜」

 わかりずらい言い回しだったかな? でも、それが事実。

「これね、見えないんだ。ただあるだけ」
「見えないの?」

 そう。肯定の意味でうなずく。テーブルの上に置いたフィギュアをポエちゃんに見せて、

「これと一緒で『作り物』なの」

って、笑った。





 ユーリと会う前、ギター持ってふらふらしてたのはご存じのとーり。あの時は地球にいたんだ。

 アオイ肌のお兄さんが珍しかったのか、子供達がわらわらと集まってきた。だから、子供向けっぽい曲を弾いて歌ってた。何日も何日も毎日毎日、みんな笑ってたし、ボクも楽しかった。

 でもね。

 メルヘン王国出身のボクが地球に来れたくらいだから、誰でも来れるんだよね。


 この日はなんか鳩が多かった。
 あ、この頃はまだ平気だったの、鳩。
 で、いつも通りに弾き始めた──── 。

     ───────────────────── 

 最悪だったね。ボクは妖怪だって言うのに、恐怖を感じたね。
 だって、まさか鳩が襲ってくるなんて誰も思わないジャン? しかも、その鳩たち。左目だけを狙ってた。
 鳩の大活躍でボクの左目は無くなった。

 あとで知ったんだけど、ボクの左目はどうやらメルヘン王国のユーメーな魔術師さんが何かに使ったんだって。持ち主に断りもなく勝手に奪って、勝手に使ったなんて、勝手な奴〜☆
 ボクにとって目なんてどうでもよかったから、特別何もしないでただ包帯を巻いて、また公園で子供と一緒に歌った。





 気まぐれにメルヘン王国に戻って、地球と同じように公園で歌ってたところ、ユーリにスカウトされた。弾いてたギターじゃなくて、ベース。
 何となく楽しそうだったから、即OKした。

 ある日、いきなり。

「左目、見せてみろ」

 他にも言い方あるんじゃない? ユーリさん。

「ヤだっていったら?」
「見せてみろといっている」

 拒否権ないってか。はいはい、わかりましたよ。というように両手を上げた。
 包帯をはずして現れる何もない左目。それを見てユーリはただ一言。

「義眼を入れろ」
「え?」
「何か入れておかないと、顔が崩れる」

 これがユーリの優しさってわかったのはしばらくあと。

 ボクは冗談半分で金色の義眼を入れた。片方は闇の眷属の証である紅い瞳、もう一方は光の眷属の証である金の瞳。でも、入れただけで、見えるようにはしなかった。

 だって、ボクにとって目なんてどうでもよかったから。





 「はい、おしま〜い」といってボクは元通りに包帯を巻いていく。

「これ、ナイショね。誰にもいっちゃーダメだよ?」

 ポエちゃんの口の前に人差し指を立てる。

「ユーリにも? アッシュさんにも?」
「あの二人は知ってるからいいよ〜」

 これを知ってるのはメンバーだけだったけど、ポエちゃんはユーリの大切な子だからそのうち教えた方がいいかなぁ? ぐらいで思ってたんだよね。

 何で金の目を入れたのかわかった気がする。
 ボクも「対」がほしかったんだ。「金色の対」が。

 ユーリもうかうかしてたらダメだよ? 誰かに奪われちゃうよ。……奪っちゃうかもよ。

「さぁて。そろそろ3時だからアッシュ君におやつもらいに行こうか〜」
「うん!」

 ボクが先に椅子から立ち上がって、ポエちゃんが椅子から飛び降りて。ボクのさしだした手をとって歩き出す。





 本物の「太陽」はこんなにも温かい。偽物の「太陽」は……これに及ばないかもしれないけど、温かいでしょ?



end





ユリポエ前提のお話ですが、単なるスマの私的過去話になってます。
目については全くのオリジナルです。
鳩に奪われた事と金色の義眼が書きたくてこれが出来上がりました。
絶妙にスマ→ユリでスマ→ポエです。微妙。
「目を入れないと、顔が崩れる」ってのは当然ながら想像です。

2002/10/20