Sweet Lovers




 今年のバレンタインはとても都合がいいと思う。
 同じ雑誌モデル仲間と明日に向けて、チョコを作る。材料を買いに言ったときに貰った、チョコのレシピ集とにらめっこして、作るものを決めた。

 フォンダンショコラ。

 最近忙しそうだし、たまには甘いものもいいんじゃないかって思った。



 男性に渡すには可愛らしすぎるラッピング。それでも、色合いとかは先生に合わせてみた。あったかい太陽のオレンジ。先生の、髪の色。
 フォンダンショコラもラッピングも上手に出来てよかった。まぁ、先生なら、多少失敗しててもまったく気にしないと思うけれど。それでも、成功したものをあげたい乙女心。
 ……多分、先生は理解してくれないと思うけれど。





 PM6:30

 仕事の終わりと、そっちに向かうことをメールで伝えた。珍しく、すぐに返事が返ってきた。
 で、今いるのは−−−母校。先生の職場。
 受付の人と、近くにいた顔見知りの先生に許可を得て、ここの制服を着た。ほんの数年前までいつも着ていたものなのに、なんだかコスプレっぽい。
 えーっと、先生のいるはずの教諭室への近道はこっちー。と、歩き出した、その時。

「おい。下校時間は過ぎてるぞ。早く帰れー」

 微妙に疑問系に伸びた、非常に聞き慣れた声がして、振り向く。

「……ミサキ? なんでお前ここにいるんだ? たった今メール来たばっかだぞ!」

 驚いたその顔が面白くて、思わず笑顔になる。

「だって、ここに着いたときにメールしたんだもん」
「それに、そのカッコ……」

 高校当時と同じくらいに短くしたスカートの裾をつかみ、ポーズをとってみる。このあたりは慣れたもの。

「先生を驚かせたかったから!」
「だからって……」
「今日はバレンタインですよ、先生。直接会って渡したいじゃない? はい、これ先生へ」

 バンドを組んでる先生には甘すぎるラッピングかもしれない。でも、受け取ってくれるでしょ?

「あ〜……」

 照れると頭をかくクセ、実はすごく好き。だから、見られて嬉しい。

「ありがとう……ミサキ」
「どういたしまして。じゃあさ、教諭室行って、食べよう!!」
「お前、これ俺にくれたんじゃねぇの?」
「ん〜、今すぐ食べてもらいたいから、早く行こう!」

 先生の腕を無理やり引っ張り、教諭室へ向かった。





 チーン。

 教諭室に備え付けられている電子レンジがあたため終了を告げる。

「先生ー出来たー」
「おー」

 フォンダンショコラは温めて食べるもの。そうすると、中のチョコが溶けて美味しいんだ。

「あったかいうちに食べてください」
「んじゃ、いただきます」

 小さいにもかかわらず、先生は一口で食べず、半分だけ食べた。って! それじゃ、チョコが流れ出てくるじゃない!!

「うわっ!!」

 手のひらに流れ出すチョコレート。反射的に、それはもうごく自然に、私は先生の手首をつかみ、そのチョコレートを舐めていた。


 一瞬、時が止まる。目があって、また止まる。

「……ミサキ」

 名前を呼ばれて、目を閉じた。そのあとは当たり前のようにキスが降りてくる。チョコの甘い味がする、やわらかなキス。
 唇が離れて、目を開いて、お互いに笑う。

「ね、美味しかった?」
「ああ」

 右手に残っていた半分を口に入れる。

「メシ、まだだろ。食って帰るか」
「じゃあ、汐留に新しくできたところがいい!!」
「却下」

 うわ、すごい即答。

「けちー」

 口をとがらせて、不満を表す。まぁ、先生と行くならどこでもいいけど。

「まぁ、まずはその制服脱いでこい。着替え持ってきてるんだろ」
「うん」

 服を突っ込んだおかげで、少しふくらんだバックを持ち、隣の準備室に行こうとしたとき、腕をひかれた。


「ミサキ。……ありがとう」





 その言葉だけで、幸せになれた。



end





14日前後にも間に合わなかった、Dミサバレンタイン話。
テーマは、ミサキさんに制服を着せる!です。
一般的な「女子高生」っぽい制服だと考えています。

久しぶりに、考えていたとおりにまとまった話です。
裏テーマのキスもクリア。
でも、もう少し大人の恋愛風に出来ればよかったですね。

2005/02/22