AUTOMATION AIR




 夢を見た。
 でも、よく思い出してみると、あれは夢のような現実だったと思い出した。





 今日のおやつはシンプルなドーナツを作った。
 近頃、こった物ばかり作っていたから、簡単な物をと思って作った。
 ……実は、自分が食べたかっただけかもしれない。
 おやつのお供はミルクココア。本当に幼い子に出すおやつの組み合わせだが、子供向けのアニメビデオを見て楽しんでいる彼には丁度いいのでは? とか思う。





「出来たッスよ。おやつにしましょう」

 テーブルの上にドーナツとココアを置く。
 いつもなら、目をビデオに向けたままおやつに手を伸ばすのだが、彼は珍しくビデオを止めた。





 無言のままの時間が少し経った頃。

「……スマの他に透明人間っているんスか?」

 問われた本人は、ココアの入ったマグカップに口を付けたまま、目線だけを向ける。

「あ……!! いいんです! 今の話、忘れてください!!」

 言ってから気がついた。
 これはスマイルの過去に関わること。以前、聞いた、過去の話。それを思い出させることになる。

「……何で?」
「へ?」
「へ? じゃなくて、何で。どういった理由があって、そのことが知りたいの?」



 ……スマイルは答えようとしてくれているのか?

「あの……夢を見たんです。でも、夢じゃないって言うか……その……小さい頃にあったことを、夢で見たんです」

 3つ目のドーナツを食べ終えたところで。

「どんな夢だったの? 夢の内容によっては、教えてあげないこともないよ」

 彼はどのような考えでそう言っているのだろう? 長い間付き合っていたとしても、それはわからないような気がした。
 それでも、夢の内容を言って答えてくれるのなら……。

「小さい頃、母親と兄たちと地球に行ったんです。その時……」





* * * * *





 それは、よく晴れた日だった。
 たくさんの人がいる町中だというのに、とても澄んだ歌声が聞こえてきた。が、母親や兄たちにそのことを言っても、何も聞こえないらしく、首を傾げている。
 聞こえた歌声は気のせいだとされ、立ち止まりたいのに、手を引かれて連れて行かれてしまう。
 明らかに進む方向とは違う方からその歌声は聞こえている。



 どんどん声が遠くなる。



 信号で歩みが止められた瞬間、走り出した。兄たちの制止の声を背中で聞きながら、聞こえてくる歌声を追いかけた。



 どうしても、その声の主を知りたくて。



 人のごった返す大通りにでたところで、その声の主を見つけた。
 道のど真ん中で歌っているのに、その回りの人達はその人に見向きもせず、こんな澄んだ歌声だというのに、立ち止まったりせず……ただ通り過ぎていく。



 まるでその人が見えていないかのように。



 しばらく、離れたままその人を見つめていると、その人が自分に気づいたようで、こちらを見て微笑みながら歌い続ける。
 そして……

「僕を見つけ出して−−−」

 そう歌ったところで、その人はすぅっと姿を消した。
 驚いたまま動けないでいると、いきなり頭に衝撃を受けた。
 追いかけて生きた兄に頭を叩かれたのだ。それも、容赦なく。
「団体行動を乱すな」、「一人でいたら迷子になるだろ」、「バカかお前は」と口々にいわれた。
 が、そんな言葉より耳に残ったのは、明らかに自分にむけられたあの人の「僕を見つけ出して」−−−





* * * * *





「……だから、その人は誰かに見つけてもらえたのかなって思って……」
「いきなり消えたし、透明人間だったんじゃないかとも考えて?」

 肯定の意味でうなずく。

「そう……。これ、ぬるくなっちゃったから、あったかいのちょうだい」

 と、マグカップを渡してきた。





 一度心配になると、ずっと気になってくる。
 あのとき、あの場所で、あの人に気づいていたのは多分、自分一人。
 種族は違うが、妖怪であることには違いないだろう。
 それは、きっと透明人間。
 スマイルはあの人を知っているのではないか?





「はい、どうぞ」

 ココアをスマイルの前に置いたとき、手首を強く握られた。

「ボクの他に同じ種族がいるかは知らない。でも、その人はきっと見つけてもらって、幸せになっているよ」

 その細腕の何処にあるかわからない力で腕を引かれ、彼の上に倒れそうになる。とっさに、もう片腕でそれを阻止した。自分が彼の上に倒れたりなんかしたら、怪我をさせてしまうに違いない。

「こうやって、おやつ作ってもらって、抱きしめてもらって、時々キスしてもらって……幸せになっているよ」

 ぎゅっと抱きしめられ、耳元で「だから心配しないで」と言った。




 何の根拠もない。単なる気休めかもしれないが、彼の言葉は何故か信じることが出来た。
 きっと、あの人も誰かに見つけてもらって、幸せになっている……なっていて欲しい……そう、願った。










 まさか、あれを覚えているとは……。
 確かに、ボクは、君に、見つけだしてもらったよ−−−。



end





「雑記帳」にあった物が何とか形になりました。
久しぶりに思ったように書けて良かったです。
「僕を見つけ出して」を無事柱にすることが出来ました。

タイトルはPIERROTから。キリト氏の歌詞、大好きです。

2004/03/07