×(バツ)




 口に運ぶものは白い錠剤。
 味なんか特になくて、単にヒマだから食べているようなもの。





 …………本来は食べるものじゃないんだけど。





「また、これか」

 顔を横にずらして、声の聞こえた方を向く。
 ベッドの上に無造作に広げられた錠剤一つを手に取ってるユーリがいた。

「今回は何処から手に入れた?」
「ないしょー」

 くすくすくす。
 笑いながらまた一つ、口に入れる。

「辞めろと言っただろう」

 ベッドの端が微かに沈む。

「だ〜か〜ら〜ボクには効果ないんだってば。これは単なる嗜好品」



 人間に現れるような効果はあまり出ない。便利といえば便利だけど、それを体験してみたいって言うのもある。
 食べるのは、噛んだ感覚が楽しいから。



「一個どう?」

 勧めてみる。

「いらん」

 即答。拒否。
 わかってたけど。



 顔のすぐそこに置かれた手に腕を絡めて、甘えてみる。

「ねぇ〜、しよ? 今日はボクがしてあげるーから」
「遠慮する」
「じゃあ、アッシュにしてもらうからいい」

 起きあがる瞬間に意識が飛びそうになる。
 あ、これがそうか。

「行っても無駄だ。アイツにはすぐばれるぞ」

 そりゃ犬くんですもの? 匂いでばれます。こういうのうるさそうだし、行かない方がいいかな。





 身体が疼くんだよ。抱きしめるだけでもいいから……お願い。

「……っ!! 何をするっ……」

 何をってキス。クスリ付き。

「おいしくない?」



 かりっと割れる音が聞こえた。そして……

「んふぅっ……!」

 口づけられる。口を割って移されるのはさっきのクスリ。砕かれてる……。



 それを飲み込みつつ、舌を絡める。

「ふぁ……っ……ユーリぃ……」

 顔がそのまま首筋に移動される。何されるかわかった。

「んああっ!!」

 熱い……。無意識のうちにユーリの肩に爪を食い込ませる。





 ……だめぇ……これだけでイッちゃいそう……。





「……やはり、不味いな……」

 噛みつかれた部分を舐められて、それにすら反応してしまう。





 すご……気持ちよかった……。





「これは預かっておく。もう二度と服用するな」

 霞がかった頭。

「……やめたらー、何かご褒美くれるー……?」
「さてな」

 そんな曖昧な言葉を残し、ユーリは部屋を出ていった。



end





ユリスマユリ? ドラッグネタ。
「クスリを食べる」というネタを読んで書きたくなった代物。

スマが食べてるのは、
MDMA……通称「エクスタシー」と呼ばれる合成麻薬です。
これは今回ネタとして使わせていただきました。

2004/05/24