Can't Stop My LOVE 2




「ホントウに? ホントウにボクが一番好きなの?」

 その言葉さえなければきっと、ずっと気がつかなかったこの想い。



 記号のように紡いでいた「スキ」と「アイシテル」。
 満月の狂気に支配されるこの血で汚し続けることへの恐怖。
 単なる性欲処理の道具にまで堕としそうになったこともあった。


 確かにスマイルのことは好きだ。愛してもいる。
 でも……。でも……。
 恐れていた満月の狂気で手に入れた「一番の好き」。





 それは、スマイルじゃなかった。





* * * * *





 いつもと同じように朝食の用意をするアッシュは覚悟を決めていた。

 自分が本当に欲しかったのは貴方ではない。本当に欲しかったのはユーリであったと伝えなくてはならない。

 今ユーリはアッシュの部屋で眠っている。二人は初めて関係を持ったのだ。





 毎月訪れる満月の夜。理性が抑えきれなくなるアッシュの相手をしていたのはスマイルだった。しかし昨夜、アッシュの部屋に訪れたのはスマイルではなくユーリだった。

「ただ興味がある」

 それだけがきっかけだった。十分すぎるきっかけだった。





 罵られても叩かれてもかまわない。泣かれるのは少々きついが。
 傷つけると、それくらいじゃ傷は埋まらないとわかっていても、自分の想いには嘘はつけない。このまま何も伝えずスマイルとの関係を続けていきたくはない。



 覚悟を決めたといっても、会いたくはなかった。





 アッシュの願い通りに一ヶ月たってもスマイルに会うことはなかった。

 二ヶ月たっても。

 スマイルは長い期間仕事が入っていないと、ふらりといなくなっていたので不思議には思っていなかった。それでも、長くて半月。この長さは異常だった。





 穏やかに晴れた日。スマイルの部屋のドアが開いていた。

「帰ってきたならいって欲しいッスよ……まったく……」

 口から出てきたのは文句だったが、それには安心感が含まれていた。



 半分開かれたドアの先、部屋の中にいたのはスマイルではなかった。

「ユーリ……」

 アッシュの声に顔を上げるユーリ。手には小さな紙を持っていた。

「……これはどういうことだと思う」

 手渡された紙にはただ一言、「バイバイ」と書かれていた。

「これって……!」

 テーブルの上に置かれた腕章が目に入った。それは間違いなくスマイルのもの。


『みんなと一緒って証でショ? だから、はずしたくないんだ』


 誰よりも寂しがりなスマイルが決してはずさなかった腕章がそこに残されていた。
 短い別れを告げる手紙とはずされた腕章が全てを物語っていた。



 スマイルはDeuilを出ていった。



「あのバカ者が……」
「これからどうするッスか……?」

 まさかスマイルなしでDeuilを続ける……? そんな不安がアッシュの頭をよぎる。

「一度、全員を集める」

 そういってユーリは部屋を出ていった。





 アッシュがソロとして出演することになっていたラジオに急きょDeuilが出演することになった。
そのラジオは……。





「全国七万六千八百人のポッパーのみんな! 今日も元気にポプってた!? こんばんわニャミです!」
「どうしてそんなに細かいのかはつっこんじゃいけないよー。こんばんわ、ミミです! 今週も始まったポップンラジオ! この番組はポップンパーティに参加してくれたcoolなポッパーたちと過ごせるgoodな1時間! さて今日のゲストはっ!?」
「毎回せくすぃな歌声を披露してくれるアッシュさん! といいたいところなんだけど、なーんとDeuilの皆さんが!」
「こんばんわ〜。 あれ? スマイルさんの姿が見えないけど〜……消えてるの?」

 話をふられて戸惑うアッシュのユーリが助け船を出す。

「それについては番組の最後に話そう」
「なぁ〜んか、重大な発表がありそうだよ。みんな最後まで聴いてね!」

 ユーリの様子にミミとニャミは顔を見合わせつつも番組を進めていった。





 一時間はとても短く、エンディングまでやってきた。

「さて〜エンディングになっちゃったね〜」
「オープニングでいってた重大な発表のこと聞いちゃっていいかな?」
「ああ。ここ数ヶ月、スマイルの調子が思わしくなくてな。回復するまでDeuilの活動を休止することにした」

 ユーリから発せられた言葉にスタジオ中の空気が止まる。それと同じようにリスナー側の空気も止まったことだろう。

「……っそれって……?」
「スマイル以外でやる気はさらさら無い。私は今のメンバーが最高のものだと思っている」

 すっぱりと言い切る。

「もしかして、これが最後の出演?」
「Deuilとしては……だな。各自のソロ活動は今までと変わらず行う」

 全てはユーリの決定。この決定に誰も反対はしなかった。
 スタッフが何やらこちらに合図を送っている。それに気づいたミミは、

「あーっと、もう時間切れ!? すっごい発表だったね!」
「これについて電話はしないでね〜! 回線パンクしちゃうよっ! じゃあ、今週はこれまで!」
「来週もまた聴いてね!!」

 かくして、Deuil事実上最後の出演のラジオは終了した。
 が、ニャミの言葉むなしく、いった時点で電話回線はすでにパンクしかけており、終了後まもなくパンクしてしまったという……。





−−−−−


全てが動き出したことを確認するように
一つが終わりを告げる
人は恐れる 人の心を
人は信じる 人の心を


−−−−−



to be continued





遅くなりましたが、お届けに上がりました第二話です。

アッシュの心変わり。Deuil活動休止……。
何かと大変ですが、本編が始まりました。
これくらいのテンション(?)で最後まで行くので
おつき合いいただければと思います。

2003/01/03