Can't Stop My LOVE 3
行くあてもなく、ただフラフラとしていた。
まるで昔に戻ったみたいだ。
ただ、もう、迎えに来てくれる人はいない−−−
*****
「お兄さん、いくらぁ?」
ビルとビルの間、暗い路地に響く不釣り合いな声。
「え?」
「だーかーらー。お兄さん、いくら?」
地べたに座り込んでいたスマイルは前に立つ少女の言っていることがわからず、ただ首を傾げる。少女もいぶかしげに首を傾げる。
「あ! もしかしてお兄さん売りの人じゃないの!? じゃ、こんなとこいちゃダメだよっ!」
少女は引きずるようにスマイルを路地から連れ出した。
いきなり耳に入ってきた繁華街の喧噪に顔をしかめる。そんなスマイルに少女はずいっと顔の前に指を出して言った。
「あんなトコにいたら売りと間違えられちゃうよ!」
「家出や路上の人なら他に行くとこが……」とつなげる。
「あのサ……売りって何?」
「ん〜……っと……売りってーのはぁ……一緒に遊んだり、エッチしたりしてお金を稼ぐこと。身体を売るってーことね」
いわゆる売春である。取り締まられてはいるが、まだまだその人口は多い。ちなみに、売ることも買うことも犯罪である。
質問に答えた後で少女は笑顔でスマイルの顔をのぞき込んだ。
「お兄さん、声いいね〜。 背ェ高いし? かっこいいじゃん。 今夜、あたしと付き合ってよ! ね?」
何がなんだかわからないうちにスマイルはうなずいていた。
眠らぬ街−−−スマイルはここで初めて自分が地球に来ていたことを知った。無意識のうちにこちらへと向かっていたのであろうか……?
少女−−−カナと一緒に入ったのは大型のCDショップ。一番目立つディスプレイに平積みされた一枚を手に取り、裏返した瞬間、
カシャーーーン
その音に近くにいた数人が振り向く。
落としたと思われる男はただ右手を開いたり閉じたりしていた。
「何してるの? CD落ちちゃったじゃん。はい」
カナが落としたままであったCDを拾い、それを見た。
瞬間、右手が消え、CDがすり抜け、落ちた。
今は、ある。でも、さっきは消えた。
「存在」そのものが消えた。
−−−ああ、そうか。もう、来ちゃったか−−−
「ああ!! お兄さん、誰かに似ていると思ったら、Deuilだ! Deuilのスマイル!」
ひたっていたスマイルを覚醒させたのはカナの声。
「Deuil」という言葉にドキリとする。落としたのはこの間開催されたポップンパーティのCDだった。それはスマイルが「Deuil」として出演した最後の番組。
「よ〜く見たらそっくりだよね〜。何? お兄さんスマファンなの?」
「……ウン」
本人。とは言えず、嘘をつく。軽い、その場だけの嘘。
誰かが「嘘はいけないッスよ」といっていた気がする。
「じゃーこれあたしからプレゼントするね!! 今日の付き合ってくれたお礼に!」
スマイルの返事を待たず、カナは落としたCDをディスプレイに戻し、新しく2枚ってレジへと向かった。
「……買ったはいいけど……お兄さん、CD聞けるの?」
「そーだねェ。聞けないねぇ」
まるで人ごとのように答える。
駅へと向かう道。今日遊ぶのは終電まで。とカナと約束をしていた。
「そーいやー、Deuilって言えば……もったいないよねー」
次に出たカナの言葉にスマイルは驚くことになる。
「ん〜? 知らない? ファンじゃなくても知ってるってーのにぃー。二、三ヶ月前かな? 活動休止したんだよ」
「え!? どうして!?」
「お兄さんの好きなスマイルが病気なんだって。治ればまた再開するかもよ」
理由を聞いて立ち止まる。すでに駅には着いていた。
Deuilが活動休止? その理由が自分? しかも、「病気」と「嘘」をついて。
何故? 決定したのはユーリであろう。でも、その理由がわからない。
「お兄さん送ってくれてアリガト。 また……会えるといいね!」
一人佇むスマイルを残し、カナは改札を通り抜けていった。
to be continued
4話にはモブ×スマイルの性的描写が多少なり入ります。
ご注意ください。
あと、微妙にグロい表現も。
読まなくても第5話には差し支えはないかもしれません。
2003/04/29