Can't Stop My LOVE 4
スマイルはふらふらとビルとビルの間の路地に戻ってきた。さっきまで座っていたところに再び腰を下ろす。
ずっと考えていた。
自分がいなくなっただけなのにDeuilの活動を休止させたことを。
何故? ナゼ? なぜ?
かわりはいくらでもいるのに。
いくら考えても答えは出なかった。
−−−無性に二人の声が聞きたくなった。本物でなくても、録音された声でも。
地面を見つめるスマイルの視界に人の足が入った。
ゆっくりと目線を上げていく。そこにいたのはスーツを着た30歳前後のサラリーマンだった。
「見かけない子だね。新入りかい? 今日行くところがなかったら、私のところにおいで」
その言葉と差し出された手が何を示しているかすぐにわかった。
わかった上でその手を……取った。
* * * * *
シティホテルの最上階。クィーンサイズのベット上に重なるふたつの影。
「感度がいいね……。初めてじゃないんだ……」
喘ぎ声を出来るだけおさえる。本当は見知らぬ男に触られていることに吐き気すら感じていた。
が、淡い光の反射で見知らぬ男の髪が、よく知る男に見えていた。ゆれる、緑色−−−
「……ぁ……っしゅ……っっ…………」
微かに彼の名前が漏れる。それに男はいち早く気づいた。動きは止めず、そのままスマイルの耳元で囁いた。
「それは恋人の名前?」
「ちがっ……!! か……らだぁ……だけの……っっ…………っ!」
自分で言って自分で傷ついているのがよくわかった。でも、そうだという考えはずっと否定できなかった。
「他の客の前ではいっちゃ駄目だよ。ヤられるだけヤられて、一銭にもならない」
その言葉はスマイルには届いていなかった。ただ快楽に追いつめられていく。嫌悪を感じているはずなのにただただ快楽に追いつめられていく。
うつろな瞳は見知らぬ男ではなく、かつて自分を愛してくれたあの男の姿を写し続け、指は愛しいあの男の温もりを感じさせ続けていた。
甘い幻を。
「あっ……ぅ……もぅ…………ダメぇぇぇぇ!!!」
気を失う瞬間、スマイルは彼の名前を呼んだ。小さく、誰にも聞こえないように。
うっすらと目を覚ます。
「気がついた?」
声を出さず、男を見ずうなずいた。
ベットに腰掛け、優しい声でスマイルに話しかける。
「私は帰るけど、今日はここに泊まりなさい」
蒼い髪に指を絡め、愛撫するように頭を撫でる。
「何か欲しいものがあれば言って? それと、これはおこづかい」
反対を向いたままのスマイルの枕元に数枚の札が置かれる。
「欲しいもの……ある?」
「…………CDプレーヤー……」
声が聞きたい。ここにあるのにずっと聞けない。だから、この男の手を取った。愛しい彼らの声を聞く為に。
「CDプレーヤーか……。ポータブルプレーヤーでいいのかな? なら、これだけあればいいの買えるよ」
さらに札が重ねられる。
男は愛おしそうに髪に口づけた。
「行くところがなかったらいつでも連絡して。すぐに駆けつけるから」
「じゃ、またね」そう言って、男は部屋を出ていった。
寝返りを打ち、重ねられたお金を見て、身体の内側から笑いがこみ上げてくる。
「……ヒッ……ヒヒッ……。これがボクの価値なんだねぇ……」
ベットの上からものすごい勢いでそれを払い落とす。舞う紙切れが淡い光に浮かぶ。
その様子が儚くて、やたら綺麗なものに見えた。
次の日。スマイルは近くの家電量販店でポータブルプレーヤーを購入した。もちろん、自分の身体を売って稼いだお金で。
そして、あまったお金でもう一つ……。
夜。またあのビルとビルの間の路地にいた。CDをセットし、再生させる。
しばらく聞いてなかっただけなのに、懐かしいインスト。もうすぐ、彼の声が聞こえる。
笑みを浮かべながら、空にかかげたのは、見えぬ月をも切り裂く、銀色のナイフ。
「最後に聞こえるのはどっちの声かなぁ……」
そして、そのまま躊躇うこともなく手首に向かって振り下ろした。さらに、自分の首へと突き立てた。
紅い血が流れ出し、意識が遠のく。
最後に聞こえたのは−−−曲と曲の間の無音だった。
−−−−−
一時の快楽は 甘い幻
己の願いすらも叶えられない
紅に沈みながら
訪れることのない最期を
待ち続ける
−−−−−
to be continued
お待たせいたしました。
前話はまだよかった。
でも、スマ以外のポプキャラ出ないわ、見知らぬ男に抱かれるわ、
切ないわ、痛いわ……。
……自分で考えた話なんですけどね。書くのが辛かったです。
微妙にエロくなったり、グロくなったりして申し訳ございませんでした!!
次回、あのカリスマお兄さんの登場です。
2003/04/29