恋は盲目




 恋は盲目。
 自分の周りすら見えなくて、見えるのは想いをよせた相手のみ。
 たまに見える周りは……どうでもいいんじゃないかって思う。





「元気ないッスね。どうかしましたか?」

 久しぶりに話しかけられた。話しかけるのはいつもボクからだから。

「別に」
「別に……ってとてもそんな風には見えないんッスけど」

 ボクの頭を優しく撫でて、隣に腰を下ろす。「どうしたんですか〜?」と顔を覗こうとするけど、見られないようにボクは顔をそらす。
 そらした先には……あの人がいた。
 動かない視線にキミがそちらを向く。





 向いてほしくないのに。
 だって、ボクにはくれない優しい瞳であの人を見るから。
 ほら。





「……神様にお願いしたの」

 ぽつりと一言。
 視線はボクへと戻されて。

「MZDさんにッスか?」
「ちがうから」

 自称:カミサマじゃなくて、人間が信じてるあの「神」様。

「叶ったら誰かが不幸になるから。姿の見えない、本当にいるかどうかわからない神様にお願いしたの」
「誰かが不幸になる……願いって……?」



「……あの人がボクを愛してくれますように」



 初めて口に出す自分が一番傷つく願い。

「それがそうなんッスか?」

 こくん。うなずく。
 うなずいて、そのまま俯いてしまう。

「いたって、普通の、願いだと思うんですけど」

 首を横に振る。

「あの人には他に好きな……愛してる人がいるから」
「……そうッスか」
「あの人が幸せなら、それでいい」





 そう思っているのは事実。
 ボクの方がたくさん想ってるのに。
 最初から、勝ち目なんて無かったのかな……。





 また頭を優しく撫でられて。

「優しい人ッスね」

 優しい? ボクが? こんなにもキミを困らせているのに?

「相手の幸せを願える優しい人。でも、その想いは断ち切った方がいいと思うッス。必要以上に傷つく」

 付けられた傷は数知れず。
 それをキミに見せてあげたいよ。

「こんなことを言うのは酷だと思いますが……新しい恋を探して、貴方も幸せになってください」





 恋は盲目。
 自分の周りすら見えなくて、見えるのは想いをよせた相手のみ。
 もうボクもキミ以外見えないんだよ。



end





5000Hits記念フリー小説でした。

三人称を出さなかった事に深い意味はありません。
最後まででなかったから、出さなくていいかなーとかそんなところです。

ちょっとアッシュの台詞が気に入らないというか、変というか。
盲目になってるのなら、いえる台詞かな?
普段の彼なら言わないと思います。

2004/08/10