せめて、この身が消えるまで
この痛みは君への想い。
「相変わらず、綺麗だねぇ……」
ひらりひらりと舞い落ちる桜の花びらに手をのばす。
「スマッ!!」
声のした方には肩で息をしている愛しい人が。
「ボクを捜してくれたの?」
「当たり前ッスよ! いきなりいなくなったらビックリするじゃないッスか!」
「ありがとう、アッシュ」
背中に微かな痛み。
「もぅいいッス。けど、その翼……」
本来、見えるはずのないこの翼。それでも、愛しいキミには見えていて。
天に使える者の証。
でも、もうそれも過去の話。
ここに来る前は白かった翼も今では真っ黒になった。
「相変わらず、綺麗だよねぇ。この桜みたいにずっと変わらなければいいのに」
この感情が罪だというように、ひらり、ひらりと舞い落ちる黒い羽根。
黒い羽根は、既に汚れきった大地に触れてその罪が浄化され、白い羽根に戻り、土へと還る。
「前はそんなに黒くなかったッスよね?」
「大好きだよ」
ひらり。
「あいしてる」
ひらり。
舞い散る黒い羽根。
「…………まさか!!」
さすがにキミも気がついたようで。
「わかったから! わかったから、もう何も言わないでくださいっ!!」
言わなきゃいけないんだよ。
だって。
言わなきゃ伝わらないって教えてくれたのはキミでしょ?
「キミに出会えてよかったと思うよ」
「オレもそうです! でも、その翼が無くなったらスマは空に帰れないッスよ!」
「帰れなくていい。キミ……アッシュと一緒にいられるなら」
ひらり、ひらり、ひらり。
至高に住む、未だ見たことのないお前はまだボクの改心を望んでいるのか? この見捨てた存在をじわりじわりと消すなんて。
でも、その分、愛しい人に言葉を残すことが出来るのなら。
「キミはボクに誰かを愛することと、誰かが愛してくれていることを教えてくれた」
羽根の舞い散るスピードが早くなった気がする。
「天にいたときより、ここにいたときの方がボクは幸せだった」
翼をかたどっていた骨が外気にさらされる。それもまた、汚れた空気に溶けて天へと還る。
「残された時間は少ない。お願いがあるんだ、アッシュ」
「なんすか? オレに出来ることなら何でも」
真っ直ぐ見つめて、腕を伸ばす。
「抱きしめて。いつもみたいに愛してるっていって」
「!! ……でも」
「聞いてるこっちが恥ずかしくなるような睦言、聞かせてよ」
早く。
この翼と共に消えてしまう前に。
まるで、壊れ物でも扱うように優しく抱きしめられる。
瞬間。
残っていた全ての羽根が土に還った。
それに驚いてアッシュが手を離そうとするが、逆にボクは強く抱きしめる。
「愛してる。この想いだけは、誰にも邪魔させはしない」
「…………。誰よりも貴方を愛してるのはオレだけ。決して離しはしない……」
背中に回していた手で頬に触れ、口づけを交わす。
「泣かないで」
「…………泣いてねッス……」
「ん……そうだね…………」
温かい肩に頭を乗せて瞳を閉じる。
抱きしめられる温もりが一番愛しいと感じた。
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愛を知らぬ者は愛の温かさを知らない。
愛を知らずして死ぬことの愚かさよ。
貴方は本当の愛を知らない。
知らないくせに愛を求める。
与えられなければ、それを消す。
それでは、愛を知ることなど不可能。
愛を知った者はその痛みも喜びも知る。
それがどんなに幸せか、貴方は知らない。
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end
オリジナル設定アッスマです。スマさんが天使でアッシュが一般人。
スマさんは何らかの理由で地上に落とされてしまいました。
ここでいう神さまはMZDのことではなく、傲慢で自己中心な神様です。
……実はこの草稿、インフルエンザにかかっていたときに書いてました。
そして、この話を書くきっかけとなった小説(二次創作)を
読ませてくれた姉さんに感謝。
2004/05/01