Shake!




 どんなきっかけでそんな話になったのか。



「死ぬときってどんどん透明になっちゃうんだって。最期は誰にも見えないんだよ」

 軽く相づちを打つ。そして、「寂しいッスね」と呟く。
 それを聞いて、彼はまた笑顔になる。笑顔で話す内容ではないのに。

 ……「笑顔」は弱さを隠すための武器。防具。……それを知ってる。

「だからね? ボクが死ぬ時は黙って死なせてね? だんだん消えてくなんてイヤだから。見えてるうちに死にたいんだ」

 少し間をあけて、付け足した。

「……キミはボクを死なせてくれる?」

 上目遣いで聞いてくる。
 出来るはずがない。「死ぬ」とわかっていて「死なせる」事なんて出来ない。
 それがわかってて、彼は聞いてくる。
 何も言えないでいる俺をくっくっ……と笑った。

「キミに殺してくれっていってるワケじゃないんだよ。大丈夫、その時は自分でするから」

 自分で……?

 思わず彼を抱きしめる。俺の腕のなかで彼は困ったように笑った。

「アッス君はマジメだね〜」

 慰めるように、落ち着かせるように俺の頭を撫でた。





 ダメ。死なせはしない。絶対に死なせない。
 その彼の寿命が尽きるまで生きさせる。
 例え、姿が見えなくなっても。存在が消えはじめても。彼が死ぬことを望んでも。
 少しでも長く一緒にいたいから。
 ずっと、最期まで、抱きしめている。



 そうすれば。きっと。
 空に消える彼の欠片が見えるから。



end





スマの最期。「どんどん消えて見えなくなる」というのはオリジナルです。
今回のタイトルにもなりました、新堂敦士氏の「Shake!」がお気に入りで、
歌詞の中に「面白かった...なんて笑って死ねりゃいい」というのがあります。
スマが寿命で死ぬ時は笑っていたかどうかもわかりません。
だから、生きて、笑っていられるうちに死にたいと考えたのです。
でも、アスは自分の我が儘で最期まで生きさせようと願います。

2002/11/19