Bed of rose


※ R-18描写のないところを抜き出しています。

 1.平静と情念の間(先輩×会長・会長×智樹/お清め)
 2.SWEET TRAP(智樹×そはら/王道)
 3.SWEET TRAP−love potion−(先輩×会長/媚薬)
 4.はじめてのおんなのこぷれい〜はんそくびしょうじょへん〜(トモ子+ニンフ/百合)
 5.Bed of rose(先輩×会長/夜這い)


◆1.平静と情念の間 



 体育館へと移動した陣の中、大きな敷物の上に後ろ手に縛られた女性が座っている。
 それは、先程まで女子軍を率いていた主将・五月田根美香子だ。諸葛亮孔明のようなコプレをしていたのだが、今は淡いピンク色の着物のみで胸元が少々乱れている。
 男子たちが彼女の座る敷物の周りをぐるりと囲む。その上座には、戦国武将のような甲に身を包んだ桜井智樹と守形英四郎が立っていた。
 異様な状態での沈黙。この雰囲気に智樹は内心とても焦っていた。



 突如始まった全校あげての男女対抗雪合戦。
 女子軍の主将であり、主催の美香子は「負けた方が勝った方の言うことを一日聞く」とうものを提示した。それは、乗り気でなかった男子軍の主将・桜井智樹を奮起させるため男子軍の士気を上げるためのもの。いささか女子軍が不利に聞こえる条件ではあるが、こら側の勝算があっての提案だった。しかし、男子軍の血気盛んな気迫まで予想することは来なかったようだ。優勢にあった状態でそのまま押し切られ、男子軍が勝利を収めてしまたのだ。
 「勝者は敗者を一日自由に出来る」権を得た男子軍。一日女の子を自由に出来るなどとわれたら、肉欲に走る者がいても不思議ではない。普段は遠い存在である女の子に触れたい匂いを嗅ぎたい、手に入れてしまいたいと思うのは男子の常だろう。
 現に、一時的捕虜とされた女子が屈辱を受けている。それを危機的に思った美香子は、性的な事端的に言ってしまえば、セックスなどの性行為をしたいのであれば、自分が全て引き受けると申し出た。
 その他の事は、相手となる女子に負担をかけないこととその女子が了承するのなら、そ女子に対して一日自由権を使えるという条件を出した。
 もちろん、庇われた形となる女子たちからも美香子を心配する声が聞かれた。しかし、女は「この条件は自分一人で決めてしまったこと。心配はいらないわ〜」といつもの調子答えた。経験の浅い女子たちが陵辱され、トラウマを抱え込んでしまう危険性も回避させかった。美香子こそ、大人数での経験は無い。だが、大丈夫だと思え理由があった。

「……っ!」

 過度の沈黙は興奮を助長する。
 美香子は男女問わず人気がある。しかし、任侠道(セレブ)の娘で高嶺の花過ぎた。そんな彼女が目の前に気高さを保ったまま裸同然でいる。それを自由に出来ると、生唾を飲み込む音す聞こえていた。
 そう、今ここに集まっている男子たちは美香子とするためにいるのだ。
 本物の火がついているように見える灯台の火が揺れる。

「……お、お館さま……!」
「お館さま……!」

 一人が発した声に被せられる待ちきれないと言わんばかりの声。

「どうしたの? さあ、お好きなようにどうぞ。でも〜、最初はお館さまかしら?」
「っ!!」

 未だ当惑したままの智樹へ美香子は優しく語りかける。
 智樹としては、えろい事には多大な興味を持っているが、陵辱には抵抗がある。しかも彼の傍らには英四郎がいる。美香子と英四郎が良好な関係を築いていることを知っている樹は更に困ってしまった。

「せ、せんぱい……」
「本人が良いといっているんだ。なら、構わないだろう」

 アンタはこの状況を見て何にも思わんのか! と思わずツッコミを入れたくなるほど、四郎の反応は涼やかだった。

「守形君からする?」
「俺は遠慮しておく」
「そう〜」

 一つ上の幼馴染み同士の会話は通常どおりに行われる。この状況をどうにかしなくては と思う智樹だが、何も思い浮かばない。

「お館さま、ちょっといいかしら〜?」
「なっ! なんでしょうっ!?」

 にっこりと笑みを浮かべる美香子の表情が、ぼんやりとした光に照らされてやけに蠱惑に見えた。

「さすがの会長も〜一日中この人数を相手に出来ないわ〜。だから、情けをちょうだい?」





◆2.SWEET TRAP 



 ホームルームが終わり、学業から解放された生徒たちが次々と教室から出て行く。友人たちとどこへ寄り道するか相談しながら帰宅する者、部活へ足早に向かう者……皆それぞれだ。
 桜井智樹も同じように立ち上がり、バッグを背に回すようにして持つ。それとほぼ同じタイミングで、イカロスがスイカを抱いて立ち上がる。

「あー終わったぁ! さぁて、帰るか」
「ちょっと待ってよ、トモちゃん。私まだ日誌書き終わってないんだから」

 智樹の開放感溢れる声に、斜め後ろの席に座った見月そはらが焦ったように言う。振り返ると、机の上には日誌が広げられていて、そう言えば、今日はそはらが日直だったなと思い出した。

「すみません、マスター」

 そはらを待つ体勢に入った智樹にイカロスはおずっと話しかけた。

「どうした? イカロス」
「朝、チラシを見たらいつものお肉屋さんより、隣町のスーパーの方が安かったんです。なので、そちらに買いに行こうと思うのですが、よろしいでしょうか?」

 イカロスは新聞の折り込みチラシを朝に確認する癖がいつの間にか付いていた。それを元に学校帰りに夕飯の買い物に行ったりする。タイムセールの時間や特売日なども、記憶に蓄えられているようだ。

「ああ、行ってこいよ。でも、くれぐれも変な行動はするなよ?」
「はい」

 スイカを抱いたままこくりと頷く。

「で、今日の夕飯は?」
「豚のしょうが焼きを作ろうかと」
「いいねー! こう暑いときはさっぱり精のつくものに限る。気を付けてな」
「はい、マスター」

 イカロスはスイカが落ちそうなくらい深くお辞儀をして、急ぎ足で教室を出て行った。

「……人間らしくなったというか、所帯染みたというか……まあいっか」

 姿の見えなくなったイカロスに手を振りながら、智樹は独り言を呟く。常日頃から「人間らしくしろ」といってきたが、ちょっと違う方向へ向かってしまっているだろうか。
 そはらの方に向き直ると、まだ日誌の上を忙しなくシャーペンが動いていた。

「まだかーそはらー」
「もうちょっとー。ここ書いたら終わり……よし! できたっ!」

 書きながら答え、パン! と、日誌の上にシャーペンを勢いよく置いた。休み時間ごとにこまめに書いていたため、それほど放課後に時間を使わない。

「じゃあ、先生のところ持っていって早く帰ろうぜ」

「置きにいったら、部室に顔出したいの。守形先輩に聞きたいことあるし」

 智樹の表情が困ったように歪む。
 なんだかんだと親しくしているが、実のところ問題ばかり起こすのであまり関わりたくない人物の名前がそはらの口から出てきたからだ。

「やっぱり今日も行くことになるのね……」

 出来る限りあの部室と関わる人物には近づかないようにしたいのだが、何故かほぼ毎日顔を出していた。



 新大陸発見部の部室へ向かう智樹とそはらの二人。部室は校舎の外れにあるため、今歩いている廊下にも人の姿はない。

「なに聞くんだ?」
「んーちょっと数学でわからないところがあって。明日あたり私当たりそうだし」

 新大陸発見部の部長を務める守形英四郎は学校一の変人と名高いが、成績はずば抜けて良かった。それ故に生徒会への参加要請もあるのだが、本人にはどこ吹く風。
 勉強に関しては実に頼りがいのある先輩で、教え方も比較的丁寧であるため、智樹もそはらも何度かお世話になったことがある。
 他とは違う木のプレートに書かれた「新大陸発見部」の文字。智樹が引き戸に手をかけた瞬間、どこからか甲高い女性の声が聞こえてきた。

「っ!? ちょっとまて、そはら」
「どうしたの」
「怪しい声と音がする」
「え?」





◆3.SWEET TRAP−love potion− 



「あら?」

 五月田根美香子は、いつものように新大陸発見部の部室の扉を開けた。しかし室内には誰もおらず、換気のため開いている窓から入り込んだ風がカーテンを揺らしていた。
 しばらくして、この部室の主が野菜を持って戻ってくる。野菜はこの学校の花壇で勝手に育てていて、大抵は英四郎の昼食か夕食になる。
 いつも英四郎が使用している窓際のパイプ椅子に座っていた美香子を視界に入れると、少し驚いたような表情を見せた。

「なんだ、来ていたのか」
「ええ〜」

 かぶり笠を脱ぎ、その下に被っていた白いタオルで微かにかいた汗を拭う。夏も盛りを過ぎたがまだまだ日中の日差しは強く、肌を焼く。

「少し外に出ていた」
「暑そうね〜。私の飲み差しだけど、飲む〜?」

 そういって、美香子はテーブルの上に置いてあったお茶のペットボトルを差し出した。飲み差しとのことで、半分くらいその内容量は減っている。

「……」

 この二人の間で飲み物や食べ物の共有はそれほど珍しいことではない。しかし、何か違和感を感じている英四郎は、訝しげに思いつつもそれを受け取って蓋を開けた。

「……ふふっ」

 微かに笑みを浮かべた美香子に英四郎は気が付かない。
 常温に置かれたお茶は冷たさはなかったものの、渇いた喉を潤すには十分なものだった。「ありがとう」と持ち主に返し、背を向けてバラバラになっているハンググライダーの調整をし始めた。
 異変が起こったのは、英四郎が美香子から渡されたお茶を飲んでから、約十五分後の事だった。
 美香子の何気ない世間話に答えながら、作業していた英四郎の手から部品が転がり落ちた。それと同時に、金属の山に手を突くような音が上がる。

「………っ!!」

 英四郎は震える身体がその部品の山に倒れ込まないよう、四つん這いになり「何か」に耐えている。
 その様子を見、優雅に座っていた美香子がゆっくりと歩いてきて、傍らにしゃがみ込む。

「あらぁ、意外に速効性なのね」

 熱が上がってきた顔を片手で覆い、美香子を睨みつける。この状況を全く驚かないその声色から、彼女の策にはめられたことを確信した。やはりあのお茶に細工が仕掛けられていたようだ。

「……な、何を混ぜた……!?」
「こーれ」

 スカートのポケットから小指程度の大きさの小瓶を取り出し、英四郎に見せた。

「うちのが持っていてね、面白そうだからもらったの」

 怪しげな茶色の小瓶にビビッドな色のシールが張られている。そのシールには、「love potion」の文字。いわゆる、媚薬と呼ばれる種類のものだった。
 五月田根の若い衆がこの媚薬を美香子に見つかったときは相当焦っていたが、誰にも言わないという二人の約束の下、渡してくれたのだ。実際に彼がこれを誰に使おうとしていたのかは、彼女は知らない。

「でも、法に触れるものじゃないわ。ジョークグッズの範囲を出ないものよ」

 単なる言葉だけかも知れなかったが、現にこうやって飲み込んだ英四郎に効果が出てしまっている。

「はぁっ……くっ……!」
「苦しそうねぇ」

 美香子は苦しそうな英四郎の様子を眺め、辛そうに震える髪に触れた。





◆4.はじめてのおんなのこぷれい〜はんそくびしょうじょへん〜 



「おーい、イカロース!」

 あるよく晴れた日の午後。桜井智樹は姿の見えないイカロスを捜していた。
 そう広くはない桜井家だが、いろいろな家事をこなしているイカロスを見つけるのには少々の時間を要する。
 昼食は大分前に済ませて、片付けも終わっている。大切に育てているスイカの畑には、その後に水やりをしていた。

「アルファーなら出掛けたわよ。そはらと買い物に行くって言ってたけど」

 そんな智樹に居間でお菓子を食べていたニンフが声をかける。もちろん、テレビで流れているのは、ニンフの好きな昼ドラだ。ちょうど新章に突入して、放送する毎日がとても楽しみなのだ。
 智樹はニンフに視線を向けると、居間に入ってきた。
 そういえば、そはらに新しいレシピを教えてもらいつつ、買い物に行くと言っていたような気がする。その時に読んでいた本がとても興味深く、智樹はすっかりど忘れしていたのだ。

「そうなのか。じゃ、ニンフ、お前でいいや」
「む。なにその扱い!」
「や、悪い悪い! ちょっと協力してくれよ」

 機嫌を悪くしそうなニンフに焦りながら、智樹はゴトンと小脇に抱えていた箱を差し出す。
 濃いピンクと薄いピンクで二層に分かれた箱に、可愛らしいデフォルメされた羽が付いている。

「量子変換器?」

 それは、何度壊されようとも、何度滅ぼされようとも、必ず復活を遂げるシナプスよりもたらされた魔性の装置……量子変換器であった。



 智樹とニンフは、居間から智樹の部屋へ移動した。

「きゃっる〜ん! トモ子でぇ〜っす!」
「……」

 耳元にデフォルメされた羽のあるインカムをつけたニンフが、意味もなく胸元を露わにし、意味もなくパンチラをするトモ子に冷たい視線を送る。
 量子変換器を使い、男の智樹を女のトモ子へと変換させる。動作が不安定な量子変換器を使用するのには誰かが必要ではないが、いればそれだけ安心できるのだ。

「や〜ん、視線が痛い〜」

 両肩を自分で抱きながらくねくねと身体をよじるトモ子に更に冷たい視線を投げかける。
 トモ子になった智樹が必要以上にウザさを増加させるのは何故か、まだニンフは知らない。それはそう遠くない未来に明かされる。とても強烈な印象と共に。

「……で、なにする気よ」

 そろそろニンフもいい加減にうざくなってきたようで、早く話を進めようとするが、

「え〜トモ子、恥ずかしくていえな〜い」

と、一向に進む気配がない。量子変換器につけられた羽がぴこぴこと「状態良好」というように動く。

「……解除してやる」
「あっ、ちょっ!!」

 量子変換器のひときわ大きいキーである解除ボタンにニンフは指を伸ばした。
 ここで変身を解かれてしまったら、智樹……トモ子の持つ野望が達成されない。身を挺して量子変換器を奪う形でそれを阻止した。

「女の子は男の子よりも十倍気持ちいいって聞いたの〜!」

 素敵な機械を抱きしめながら、トモ子は言った。






◆5.Bed of rose 



 田舎の空美町は、夜九時をまわれば人の姿がほとんど見えなくなる。家々から漏れる温かな灯りも、夜半を過ぎるとまばらだ。
 夜を照らし出すのは、広めの間隔で立てられた街灯と星と月の光だけ。
 そんな頃、河原で生活を営んでいる守形英四郎の家……いわゆる、テントに近寄る一つの人影があった。
 夜の静寂を壊さぬようにテントの中に入り込み、寝袋で寝ている英四郎の姿を確認する。人影はその身体をほとんど覆っていた上着を脱ぐ。しゃらりと布の滑り落ちる音が、唯一発せられた人工的な音だった。
 脱いだ上着はそのままに、迷うことなく英四郎へ近づいていく。その人影が身体の横に膝をついたところで、英四郎は飛び起きた。
 伸ばされていた手を掴み、頭上に固定して逃げられないようのしかかる。

「っ!」
「やっぱり、気がついてたのね。こんばんは〜、英くん」

 美しい紫の髪を散らばらせ、英四郎に床に縫い付けられた状態で微笑みを向けるのは、彼の幼馴染みの五月田根美香子だった。

「この宵闇に紛れるような気配の消し方は美香子、お前しかいない」

 そういいながら、美香子の上から退いた。
 英四郎は美香子がテントに入ってきた瞬間から、彼女であることを確信していた。気配を消しすぎて逆に冷たすぎるのだ。もっとも、消されたその気配を感じるまでに、ずいぶんと時間は必要なのだが。
 美香子は体を起こし、英四郎に向かい合うように座った。

「で、こんな時間に何をしに来た?」
「これを見てわからない〜?」

 服の裾をつまんでみせる。美香子が今着ているのは、ベビードールと言われるふわりとした下着だった。
 胸元はそれほど透けない白色の素材、柔らかそうなリボンが付いたホルターネックになっている。アンダーバスト付近で紫色の透ける素材に切り替わる。紫色の部分は前が分かれているので、へそが丸見えだ。なのに、裾には同素材のフリルがあしらわれていて、可愛らしさを演出している。すらりと伸びた足を覆うのは、ガーターベルトで固定された上質のニーハイソックスだ。
 可愛らしさとセクシーさが同居するベビードールを、美香子は見事に着こなしていた。その色合いを取っても、よく似合っている。

「その姿で来たのか」
「まさか、上着を着てきたわ」

 入り口の方を指差す。先程脱いだままの藍色の上着がくしゃりと山になっていた。
 いくら荒唐無稽なことをやらかす美香子でも、さすがに下着姿で公道を歩くような真似はしない。いくら道徳が苦手とは言え、その辺りの常識は持ち合わせている。

「よく出てこれたな」
「あらぁ〜、ウチは侵入者にはすごぉ〜く敏感だけど、私が出るにはすごぉ〜くザルなの〜」

 頬に手を置いて、実に楽しそうに彼女は語る。今まで英四郎からの質問に応えていた美香子がそのまま、彼に向かって質問を返す。

「それで〜何で来たかわかった?」
「……」
「夜・這・い〜」
「…………そうか」

 何と無く予想はついていたが、英四郎はあえて言葉には出さなかった。

「この時間なら確実に寝てると思ったのだけど……」

 この夜這いを成功させるため、美香子は英四郎の生活リズムを調査していたのだ。いかに研究などが立てこんでいても、就寝時刻はほぼ一定。この時刻であれば確実に寝込みをおそえると思ったのだが、その考えは甘かったらしい。少し残念そうな顔をする。

「眠りが浅かったんだ」
「なら、ちょうどいいわ。ヤることヤったらぐっすり寝られるわよ?」