暑さ寒さも彼岸まで
【事の発端】
「この辺りはまだ余裕があったはず〜」
桜井智樹は智樹コレクションいわゆる、収集
したエロ本隠し場所を探して、居間の押し入れを漁っていた。
幼馴染みである見月そはらに発見された場合のエ本総処分の危険を回避するため、予め分割しておくだ。智樹の部屋はもちろんのこと、各部屋の押し入れ物置、トイレ、台所に至るまで、お宝は隠されているしかも、その場所及び、隠してある本の内容まで智樹把握している。
エロ本を仕舞ったケースを置けるだけのスペースを保しようと、荷物を整理していたときだった。
「なんだこれ」
古そうなビニール袋に包まれた何か。持ち上げてると、かなり軽い。智樹は首を傾げながら、それを抱たまま押し入れの外へ出た。そして、テーブルの上にいてビニール袋を開ける。
「おおっ! これは……!!」
埃を被りながら袋の中から現れたのは、過ぎ去っ夏の風物詩だった。
【珍しいもの】
桜井家に居候しているエンジェロイド二人、イカロとニンフ。そして、ご飯を食べにきたアストレアは、テブルの上に置かれたペンギン形のプラスチック製品を味深げに眺めていた。
「これは……なんですか、マスター?」
浅いガラスで出来た器と冷凍庫の製氷皿を持ってた智樹にイカロスは問う。
ペンギンは頭にハンドルを生やし、お腹の部分が大く開いている。
「なんか回せるみたいね」
ニンフがそのハンドルをくるくると回転させるが、の抵抗もなく空回りするだけ。
「壊れてるんじゃないですかー」
「壊れてねーよ。見ててみ」
アストレアの言葉を否定して、智樹はペンギンの頭外した。その中に氷を入れて再び蓋を閉める。ガラス器を開いたお腹の中に置き、ハンドルを回すとごりごを氷が削れる音が響いた。削れた氷はガラスの器の中静かに降り積もっていく。
「……っ!!」
「わぁっ!」
「すごーい!」
「どうだ! これはかき氷機。氷入れて、これ回すとが削られて落ちてくるってこと」
そう、頭にハンドルを生やしたプラスチックのペンンは家庭用のかき氷機だったのだ。
智樹がまだ幼少で両親が家にいた頃、夏になるとく作ってくれていた。器に溜まる少し荒い氷に甘いシップをかけ、何杯もおかわりした記憶がある。それがいつの間にか使われなくなって、押し入れの奥へと片けられたのだろう。
刃も錆びておらず、洗うだけで再びこうやって息吹き返したかき氷機。なんだか感慨深く智樹は思う。 幼い頃の智樹と同じようにキラキラとした目でか氷を見つめていたニンフは、かき終わると同時に器にを伸ばした。
「つめたぁい!」
「あっ、ニンフ先輩ずるいー!」
指でつまんでかき氷を口へと運ぶニンフ。先を越さたといわんばかりのアストレアは、大きく口を開いてごと傾けた。
「冷たくていいけど、何の味もしないわよ」
「氷美味しいっ! おかわりっ!」
なにも無くなったガラスの器を勢いよく智樹へ向る。それを、若干引いた様子で智樹は見た。
「……デルタはほっといて。アイスキャンディーの方がいんじゃない?」
「かき氷はそのまま食べるんじゃなくて、シロップとかけんの。……って、シロップないんだよな」
いつの間にか席を外していたイカロスは、ペットボルのオレンジジュースを持ってきていた。
「……ジュースでは、いけませんか?」
「かけすぎると単なる飲み物になるから気を付けろよ」
確かにシロップの変わりにはなる。しかし、やはりき氷用のシロップは欲しいところだ。
そう考えていた智樹の耳に、玄関の扉を開ける音響いた。
「こんにちはー! トモちゃーん!」
【買い出し】
「おお、いいところに!」
思っていたことがつい口から出たことも知らず、そらはいつものように上がってくる。
隣に住んでいて、小さい頃から交流があると案外「手知ったる他人の家」となることが多い。まさにこうう事だ。
「暇だから遊びに来ちゃった。何して……懐かしいねそれ!」
居間に辿り着いたそはらは、かき氷を作っているイロスの手元を見て言った。
そはらも小さい頃、智樹の家でそのかき氷機を使っ作ったことがあった。そはらにとっても思い出の品だ。「そはら、シロップないか?」
智樹はそはらの家にもかき氷機があったことを思出した。今年の夏に使ったかはわからないが、聞いてるのも無駄ではないだろう。
「え、家にあったのは使いきっちゃったし……。シロッないと美味しくないよね。私買ってこようか?」
「頼む!」
「わかった」
「私もご一緒します」
何もかかっていないかき氷を食べ続けるアストレアおかわり分を作り終え、イカロスが立ち上がった。
「ありがとう、イカロスさん。じゃあ行ってくるね、トちゃん」
来たばかりのそはらはイカロスを連れ立って、買いに出かけていった。
【inシナプス】
空美町一の変態と名高い守形英四郎のいう「新陸」は、その町の上空に存在する。
ニンフから借りた装置により、英四郎は自由に新大陸シナプスへと訪れることが出来た。「あなたも懲りないわね」
「飽くなき探求心……と言ってもらいたい」
二対の翼を持つ、空色の髪の女性からの苦言を気しない様子で、英四郎は眼鏡の橋を上げる。
危険は知った上だ。現に、今日も空のマスターから備を命令されたのであろう、要撃用エンジェロイド ーピー二人と追いかけっこをしてきた。
「いつか身を滅ぼすわよ」
忠告を繰り返す女性。彼女はこのシナプスの住人あり、イカロス・ニンフ・アストレアの制作者でもあるイダロスだ。
「……すがたせんぱい」
小さな声がして、英四郎のズボンが少しだけ引っられた。そちらの方に英四郎が視線を向けると、修服の幼い少女がいた。
「カオス?」
「そんな!? 目覚めるなんて……!」
焦った様子のダイダロスは透明で大きなキーボーを素早い指の動きでタイプする。その傍らには、開いカプセルがあった。カオスが調整のために入っていたプセルだ。
間違った進化をしてしまったカオスは、ダイダロスよる一時的な調整が済んだ後、しばらく桜井家で暮していたのだが、再調整が必要となり里帰りをしていのだ。
しゃがんだ英四郎の手をカオスは小さな手で握りこういった。
「わたし、おにいちゃんにあいたい」
【お買い物】
「まだあってよかったねー」
九月に入ったため、目立つ棚からは片付けられてはたが、製菓コーナーにかき氷シロップは並んでいた。だ在庫があるのだろう、種類も夏の間と同じようにい。
「いちご、レモン、メロン、ハワイアンブルー……これ……何の味ですか?」
一つ一つ名前を確認してそはらの持つカゴに入れてたイカロスの手が、青いシロップの瓶で止まる。
とても難しい質問を投げかけられ、そはらは回答困った。ハワイアンブルーはハワイアンブルーの味なだ。しかし、イカロスは知らない。どう答えたものか。
「あー……えっとぉ、ハワイアンブルー味かな?」
「?」
結果的にそはらは受け流した。ハワイアンブルーのは、どう形容すればいいかわからなかった。誤魔化すうに、近くにあった紙パックを取ってカゴに入れた。
「カルピスとかかけると美味しいよ」
「はい」
「あと、これは大切」
透明でラベルは白色のシロップを取り、イカロスにせた。
「みぞれ……ですか」
「うん、甘いシロップだよ」
みぞれはそのままかけても素朴な味で美味しいし氷の下に敷くと最後まで甘みが残る、縁の下の力持的存在なのだ。
「これだけあれば大丈夫だよね。じゃあ、帰ろっか」
かき氷シロップだけではなく、シロップに使えそうジュースを何本か追加して、会計を済ませた。
「はい」
スーパーを出たところで、見知った後ろ姿にそはら気が付いた。左側の髪を一房、鈴のリボンで結んだ大陸発見部の新入部員で新しい友達だ。
「あ、あれ? 日和ちゃん!」
【お誘い】
そはらの呼びかけに気づいた風音日和は、その歩を止めて振り返った。そはらとイカロスの二人は小走で彼女へと近づく。
「こんにちは。お二人でお買い物ですか?」
「うん。ね、日和ちゃん、これから時間ある?」
「え、あ……あの、はい……」
いきなりの誘いに少し戸惑った様子の日和。これとって予定はないが、一体なんだろうか。
「今ね、トモちゃんの家でかき氷作ってるの。日和ちゃもこない?」
「桜井くんの家……。でも、私が行ったらご迷惑になんじゃ……」
日和は智樹に好意を抱いている。そはらの誘いはしいが、引っ込み思案である彼女がそう簡単に頷くこは出来なかった。
「そんなことないよ! みんなで食べた方が楽しいしたくさんシロップ買ったから好きなのかけ放題だよ」
イカロスが今し方買ってきたシロップの入った袋をせる。その半分はそはらが持っている。
「ね、行こう」
「あ、はい……。あっ……!」
半ばそはらに押し切られる形で頷いた日和は、何に気が付いたように声を上げた。
「どうしたの?」
「皆さんいるんですよね? 氷なくなっちゃってるかしれないので、私買ってきます!」
スーパーへと走っていったその背中を見送ったそはらイカロス。この場にいても暑いので、スーパーに戻り入口で日和を待つことにする。
「そうだ。先輩たちも誘おう!」
そう言ってそはらはポケットから携帯を取りだした。
【さらにお誘い】
「そう〜。じゃあ会長、良いもの持っていくわ〜」
英四郎が自宅として使用しているテントで、五月根美香子は楽しそうに通話していた。
何もない空間に光の歪みが生まれ、その中から英郎がシナプスから戻ってくる。幼馴染みの帰還に美香は笑顔を向け、通話を終えた。
「おかえりなさい〜。あら、カオスちゃんも一緒?」
「こんにちは、かいちょうさん」
英四郎の背中から降り、てててっと言う効果音がきそうな足取りで美香子の方へやってきた。無邪気な顔を向ける少女につられて笑顔になる。
「智樹に会いたいと言われてな。夜までの約束で連れきた」
「なら、ちょうどいいタイミングね〜」
「何だ?」
ニンフに借りた装置を片付けながら、美香子と会をする。
「今桜井くんの家でかき氷パーティーをやってるそうの〜」
「そうか」
なるほど、それは良いタイミングだ、そう英四郎はった。
「私は持っていくものがあるから〜、英くんはカオスゃんと先に行ってて〜」
「わかった」
【買い出し組帰宅】
「ただいまー!」
「ただいま帰りました」
「おっ、おじゃましますっ!」
玄関の開いた音と共に、三者三様の声が居間へとく。イカロスとそはらに促され、日和も家へ上がり、間へと向かう。
「遅いっ! あ、あれ。風音も来たのか」
少々イライラした様子で顔を出した智樹は、意外な来客にびっくりした。
「あ、はいっ」
日和も少し緊張した感じで返事をする。部活で何か訪れてはいるが、未だ慣れない。
「かき氷食べ放題だぞ! ……と、いいたいところだが」
「?」
苦笑しながら居間を振り返る智樹と同じように、和もその中を見た。
「トモキーおかわり!」
「くぅぅっ! こめかみ痛ーい!! でも、おいしー!」
ニンフはジュースを少しずつかけて、アストレアは白氷のままひたすらかき氷を食べていた。
「……って具合で、あいつらにほとんど食われて、氷作てる途中なんだ」
「ダメだよ、二人とも。お腹壊しちゃうよ?」
そはらは買ってきた袋を置きながら、二人の側にる。
「心配はいらないわ」
「エンジェロイドの消化機能をなめないでくださいっ!」
そんなやり取りを見、せっかく来てくれた日和に足してもらえそうもなく、申し訳なさそうに智樹はみを浮かべた。
「ごめんな、せっかく来てくれたのに」
日和は智樹の言葉と気持ちを否定するように首をに振る。そして、持っていた袋を掲げて見せて、微笑だ。
「そうだと思って、氷の追加、買ってきました」
智樹と過ごせる何気ない日常、それがただ日和はしかった。
【一時帰宅】
「ただいまー!」
久しぶりに聞く声に智樹は急ぎ足で玄関へと向かた。玄関先に立っていたのは、カオスと英四郎だったカオスは靴を履いていないので、英四郎に抱えられてる。
「カオス!? 守形先輩まで!」
「お招き預かりありがとう」
カオスを抱いたまま深々と頭を下げる。かき氷とはえ、貴重な食料だ。提供を受けるのなら、礼を尽くなければならない。
「いや、招いてないっす!」
「私が誘ったんだよ。みんなで食べたら楽しいだろうて」
後ろからやって来たそはらがわけを話す。
「おにいちゃん」
降ろされたカオスがぎゅっと智樹に足に抱きついてる。久しぶりの再会を嬉しがっているようで、痛いくいだ。
「先輩、会長は一緒じゃないんですか?」
カオスの頭を撫でながら、英四郎に問う。
英四郎と美香子は二人でいることが多いのに、今に限って一緒に来ないのは何故なのだろう?と、素朴疑問を抱いたからだ。
「美香子なら何か取りに行くといっていた」
【かき氷の作り手交代】
しょりしょりというかき氷を作る音が響く。かき氷かき手は智樹から英四郎に変わっていた。ひたすら定ったリズムでハンドルが回されている。
「いやー! 先輩が来てくれて本当助かりました!」「うむ」
やっと落ち着いてかき氷を食べることが出来た智樹。「でも、人数が増えて消費量が増えたから……氷はりないままなんですよねー」
日和が買ってきてくれた氷も今削っているもので最だ。冷蔵庫で作っている氷はまだ出来上がっていないろう。
がらがらがら……と、玄関の引き戸が開く音。そに気が付いた智樹が立ち上がる。
「ごめんくださ〜い」
「会長」
智樹に会長と呼ばれた美香子は微笑みを浮かべ、しとやかそうに前で手が揃えている。英四郎は「何か取りに行った」と言ったが、一体何のことだろうか。
「アストレアちゃんもいるだろうし〜大人数で大変じない〜? はい、会長からの差し入れよ〜」
美香子が玄関の中に入り、身体を横に向ける。彼の後ろにはサングラスをかけ、漆黒のスーツを着た男人が何かを抱えて立っていたのだ。
「おおっ!」
【みんなでかき氷】
美香子からの差し入れは、業務用の自動かき氷機それ用の氷柱だった。一度のお祭りで使用されるほど氷を運んだ。これが無くなれば、かき氷パーティーもわりだ。
「デルタ! なんなの、それ!」
「シロップ全部かけました!」
アストレアのかき氷を見てニンフが叫ぶ。
アストレアはかけ放題を良いことにシロップ全部をけた。色が混ざり合い、凄まじい色合いになってしまている。
味が混ざって美味しいのかわからないが、当の本人満足そうに食べているのだから、特には突っ込まない。ンフも自分のカルピスをかけたかき氷をほおばった。
「イカロスさんそれ可愛いね」
「……スイカをイメージしてみました」
イカロスの前にあるのは、下の方にメロンの緑、上方にいちごの赤をかけたスイカの色合いを模したものった。そはらは粒のチョコレートを赤い部分に足してに見せると、更にイカロスの瞳は輝いた。
カオスは智樹に支えられながら、手動のかき氷機自分のかき氷を作っていた。
削り終わったかき氷を取り出して、カオスが気に入たいちごのシロップをかける。隣に置いてあった練乳のューブを見せてカオスに聞いた。
「ミルクかけるか?」
「うん」
「可愛いですね」
みぞれとミルクをかけたかき氷を手にした日和が樹とカオスの元にやってきた。
「ああ、風音は初対面だったか。こいつはカオスっていんだ。イカロスたちの……妹ってとこかな」
智樹の足の間で、嬉しそうにいちごミルクのかき氷食べているカオス。多少こぼしているがご愛敬だ。
「そうなんですか。私は風音日和っていうの。よろしね、カオスちゃん」
じっと無垢な瞳で日和を見つめるカオス。日和か差し出された手に首を傾げたが、智樹が「握手だよ手を握るんだ」と耳元で囁くと、スプーンを置いて日の手を握った。
「……かざね、ひより?」
「そう。お友達になってくれますか?」
「……うん!」
握ったままずっと不思議そうに見つめていたカオス表情はやっと柔らかくなり、満面の笑みを浮かべて見た。
業務用の自動かき氷機すらも、自在に使いこなす四郎の隣に美香子は座っていた。
「食べさせてあげましょうか〜?」
「いや、一息つける」
幾つかおかわりの分を作っておいて、英四郎は機械止めた。
一つのかき氷を引き寄せてみぞれだけをかける。香子のかき氷は自分で持ち込んだ素材で、宇治抹茶仕上げた。
「和やかねぇ」
「そうだな」
「穏やかすぎて退屈になるくらい〜。ちょっとけしかてみようかしら〜」
ここに集まる少女たちは皆、桜井智樹が好きなのだほとんどが気が付いた上で、絶妙な距離を保っているそんな彼女たちが反応するようなちょっかいを出せばいつものとおり騒がしくなるだろう。ただ穏やかなだでは、美香子は面白くない。
「やめておけ」
「ふふっ……冗談よ」
英四郎にたしなめられ、美香子は柔らかい笑みをかべた。
智樹たちより年上の幼馴染み二人は少し離れたとろで、この優しい空間を見守る。どちらも口にはけって出さないが、こんな時間がいつまでも続けばいいとっている。
未だ残暑は厳しいが、確実に秋はやって来ている。 暑さ寒さも彼岸まで。
智樹たち新大陸発見部の面々は、過ぎ去ろうとす今年の最後の夏を満喫をしていた。
end
前回「そらおと布教用」と名乗っていたにも関わらず、
先輩×会長をひたすら推していたので、
その反省をふまえてオールキャラです。
さすがに空のマスターやハーピーは出せませんでした。
2011/08/12 発行
2011/09/10 サイト掲載