問:「エプロン」と聞いて思い浮かべるものを五秒以内に答えよ。




 空美中に存在する新大陸発見部。その部室の扉を開けると、

「きゃあ〜えっち〜」

裸の少女がいました。
 やや間延びした声に、新大陸発見部の部長でこの部屋の主である守形英四郎先輩は反射的に扉を閉めてしまいました。
 しかし、今の一瞬だけ見た少女の姿をよくよく考えると、何かがおかしかったのです。
 何故ここで裸なのでしょう?中学校の一室で服を脱ぐなど、着替えるときだけなのに。しかも、思春期の女子が人目を気にせず、家のように服をそのまま脱ぐということはほとんど考えられません。例え、人が来ないところであっても鍵くらいは閉めます。
 中にいた少女は幼馴染みで空美中の生徒会長である五月田根美香子会長でした。守形先輩は彼女がまた何か考えているのだろうと確信して、もう一度扉を開けました。

「おい、美香……」
「いらっしゃ〜い」

 美香子会長は再び入ってきた守形先輩を笑顔で迎えます。
 その姿はさっきとは違ってエプロン姿。白い色が実に眩しいです。手には何か入ったカップと銀色のスプーンが握られています。

「……」

 そんな美香子会長に出迎えられた守形先輩は、静かに扉を閉めて、いつも座っている所定の位置へと歩みを進めます。横を通り過ぎられてしまった美香子会長もその後を追いかけました。

「今日の調理実習でプリンを作ったの〜」

 世界征服を企む美香子会長もまだ中学生。調理実習だってやります。

「で、その格好は」
「可愛いでしょう〜。やっぱりエプロンといえば裸エプロンよね〜」

 半ばあきれ顔の守形先輩に美香子会長はエプロンをつまんで見せました。
 そう、美香子会長は素肌にエプロンだけを着けたいわゆる裸エプロン姿だったのです。
 肩や裾にフリルがたっぷりとあしらわれた純白エプロンの胸当てからは、豊満な胸がはみ出してしまっています。でも、大切な部分は見えていません。無垢さを表す純白とは全く正反対のセクシーさが溢れ出ています。
 握っていたプリンをスプーンですくい、守形先輩の口元へ運びました。

「はい英く〜ん。あ〜〜ん」
「美香子……」

 そんなとき、がらりと開く扉の音。

「こんちは〜…っ!!?」

 扉を開けたのは、新大陸発見部の部員にいつの間にか登録されていた、桜井智樹くんと見月そはらさんの二人でした。
 美香子会長の丸見えのお尻に動きを止めたのが見てわかります。なにせ裸エプロンなのですから、後ろを隠すものは何もありません。あるものといえば、腰で結ばれたリボンくらい。

「あらぁ」

 スプーンにのったプリンはそのままに視線を向ける守形先輩と美香子会長。その可憐なお尻を見られている美香子会長は特に気にした風はありません。
 しかし、気にしたのは守形先輩です。
 腕を引き、美香子会長を隠すように自分の後ろへと追いやります。その際に制服の上着を掛けることも忘れません。丸見えだった白いお尻は上着でほぼ隠れました。
 一瞬のことで反応出来なかった美香子会長。守形先輩はそのまま智樹くんたちの方へ向かって歩いて行き、

「智樹。すまんが少し手伝ってくれ」
「あ、はい……」

智樹くんの肩に手をかけて、反転させました。

「美香子、二十分くらいで戻る。それまでに……」
「プリンは食べる〜?」

 守形先輩の声を遮り、美香子会長が聞きます。手にはまだプリンがあります。食べて貰うはずだった一掬いのスプーンだってそのままです。

「…………置いとけば食べる」
「そう〜」

 振り返らず答えた守形先輩と智樹は部室を出て行ってしまいました。
 部室にいるのは、美香子会長とそはらさんの二人だけ。

「す……すごい格好ですね、会長」

 そはらさんが美香子会長に近づきつつ、ちょっとだけ引き気味に話しかけます。引いていますが、ちょっとだけ……本当はかなり興味があります。裸エプロン。
 美香子会長は食べられることのなかったスプーン上のプリンを自分の口に運びました。

「鈍感で朴念仁にはこれくらいしなくちゃ〜。見月さんも試してみたら〜?」

 守形先輩がいつも使っているパソコンの隣にプリンを置きます。持ってきたときと同じように、蓋をするのも忘れません。
 上着に顔をそれとなく寄せてから、椅子にかけます。そして、魅惑の裸エプロンもするりと……。

「きゃあっ!」

 そんな美香子会長の行動に、そはらさんが声を上げて目を手で覆いました。

「さすがの会長でも公共の場で全裸なんてならないわ〜」

 ひらりとエプロンを手に引っかけています。全裸だと思われていた肢体を包んでいたのは、局部のみを隠したマイクロビキニです。自分に自信がなければ、こんなもの着られません。

「……ほとんど全裸だと思うんですが……」

 そはらさんの言葉はスルーして、部室の隅に置いてあった自分の荷物から制服のブラウスを取り出しました。

「守形君たちが帰ってくるまでに着替えなきゃね〜。今度は会長が追い出されかねないわぁ〜」

 美香子会長は単純に調理実習で作ったプリンを守形先輩に食べて貰いたかっただけです。けれど、それだけではつまらないので裸エプロンになってみたのです。
 守形先輩が裸エプロンごときに動揺するなんて、思ってもいません。長い付き合いの美香子会長にはわかりきっていること。
 では、何故そんなことをするのかって? だって、面白いでしょう? 現に智樹くんとそはらさんの面白い顔が見られたではありませんか。
 「置いとけば食べる」……美香子会長の目的は果たしました。
 でも、あのとき差し出していたスプーンから食べて貰いたかったのが心の奥の方に隠れた本心だったりします。



end





何気ない一言、「裸エプロン」からこのお話は生まれました。
本文の形式は「無配だし〜」と遊んでみた結果です。

2011/05/01 発行
2011/06/01 サイト掲載