きらきら




 テスト期間のせいで、終了時刻がどのクラスもほぼ同じになってしまう。試験期間中は部活動も禁止なため、足早に学校を後にする生徒も多かった。
 生徒がごったがえす廊下をすりぬけ歩く日吉は、後ろからかけられた声に立ち止まり振り返った。

「日吉!」

 手を振り上げ、自分の存在を示しながらやって来る、頭が飛び出している一人の男子生徒。
 日吉は渋い顔をしたが、振り向いてしまった手前、無視するわけにもいかず、歩行者に邪魔にならぬよう、窓側に寄って相手を待った。

「お疲れ」

 ようやくやってきた相手―――鳳に「ああ」と、短く返し、「用件はなんだ」と続けた。すると鳳は日吉の前へ白い紙袋を差し出した。

「今日誕生日だって聞いたからさ、おめでとう」

 紙袋と鳳を交互に見る日吉。紙袋に手を出さないのには、渡される理由が分からないからだ。

「なぜ、俺に?」

 直接的な言葉で鳳に問う。この相手に回りくどい嫌味を言っても通用しないのは、分かりきっている。
 日吉の問いに、鳳は意外という表情を浮かべながら首を傾げた。

「え? だって、お祝いだし」
「だから何故」

 日吉の返答に苛立ちが篭る。
 いくら祝い事だろうと、さして仲良くもない他人を祝う気に日吉はなれない。
 さすがに日吉の苛立ちに気付いた鳳は、暫く何かを考えてから言った。

「んー、日吉のこと好きだから、お祝いしたい」
「なっ……」

 さもその感情が当然のことのように笑顔を向ける。それを見せられた日吉は驚きを隠しきれず、後ろの窓に背中をぶつけた。
 鳳が再び紙袋を差し出すと、思考の混乱している日吉は無意識にそれを受け取った。
 鳳は受け取ってくれたことに満足し、

「誕生日おめでとう。よい一年になりますように」

と、言い残して去っていった。鳳が顔を赤くしていたことに日吉が気付くことはなかった。






 明日分のテスト勉強をしていた日吉の視界に、あの紙袋が入ってきた。
 紙袋の中には、丁寧にラッピングされた小さな箱が鎮座している。眺めていても仕方なく、開けてみると、キラキラとした宝石のようなものに目を奪われた。それはもちろん本物ではなく、飴がけされたナッツ類と色とりどりのドライフルーツ。
 一つを手に取り、口に運ぶ。

「甘……」

 ドライフルーツと飴の甘さが日吉にはきつすぎ、すぐに食べきることは難しそうだった。

「くそ……」

 これを食べるたび、この箱を見るたびに、鳳のあの言葉を思い出してしまうであろうことに日吉は溜め息をついた。



end





今年は珍しくネタが上がっていたので、誕生日に書き上げることが出来ました。
さて今年は、ちょた→ひよちっく。
テーマは、初々しさと青春。
ちょたが渡したお菓子の元ネタは、某喫茶店から派生した洋菓子店の一品。
この品に近づけるともう少し甘くなったかも……です。

お誕生日おめでとうございます、若様。
この1年があなたにとって良い年になりますように。

2007/12/05