旧お題 01入学式




 思わず息を飲んだ。
 −−−あまりにも……綺麗すぎる。



 そこは、クラス編成が張り出してある掲示板の前。
 咲き誇る桜の花が辺りをピンク色に染め上げていた。





 氷帝学園中等部 入学式。
 ほぼ幼稚舎からの持ち上がりで「入学式」という実感はほとんどない。
 ただ、校舎が変わるということに、ここからまた新しい生活が始まるのだという気持ちになれた。

 早々にクラスを確認し、教室へ向かおうとした鳳長太郎(12)。
 目を掲示板から反らせたとき……それを見た。



 風に流れる黄土色の髪。
 それに隠れるような切れ長の目で真っ直ぐに掲示板を見つめる……一人の男子生徒。
 周りは確かに騒がしいはずなのに、彼の周りだけ切り取られたかのような静けさがあるように見えた。

 しばらく一点を見つめたまま動けなくなっている鳳を、幼稚舎からの友人が現実に引き戻してくれた。
 そして、その目線の先にいたはずの人物はすでにいなくなっていたのである。





 一度、教室に入り、そこから入学式を行われる体育館へと向かう。
 吹奏楽部の合奏と共に入場が始まる。鳳のクラスは12組なので最後の方。入場するまでまだしばらく時間がある。

 記憶を廻らす。
 幼稚舎では見たことはない。
 確かに人数もクラス数も多いので、同学年全員を知っていると言えば嘘になる。
 しかし、横を通り過ぎたただけでもその姿は覚えているはずだ。
 −−−それほどに目を引く存在。
 見たことがないのであれば、外部入学組。
 持ち上がりがほとんどであるこの学園で、途中からの入学はとても難しいと聞く。


 そこまで考えたところで、入場になった。
 舞台の左側に入学式のプログラムが貼ってあった。

「!!」

 上手くすれば、さっきの彼の名前がわかるかもしれない。プログラムの中にそんな物を見つけた。





 そして、式は無事に進んで鳳の心待ちにしていたものが始まった。
 新入生の名前を一人一人呼んでいき、名前を呼ばれたらその場に立つ……それ。
 さっきの彼が自分のクラスより前であれば、名前がわかる。そして、視力には自信がある。

 全14組中、8組−−−半分まで来ても彼の姿は見つけられなかった。
 まだまだ、半分。クラスが近ければ合同でやることも多くなる。
 ……ふと、疑問が湧いた。
 何故そんなにも彼が気になるのか−−−?
 惹かれただけ。出来れば……仲良くなりたい。それだけだ。

「ひよしわかし」
「はい」

 ちょっと変わった名前だなと思って思考を止め、顔を上げる。



 そこにはさっきの彼がいた。



 そして、鳳は彼の名前をしっかりとの脳裏に焼きつけたのだった。





「……ーつ事があったわけなんだよっ」

 明日に控えた入学式の準備中。舞台左側に貼ってあるあのプログラムに去年のことを思い出した。
 熱を込めてあのときのことを語ったのに、君は黙々と作業している。
 ちょっと切ないけど、文句を言わないところを見ると、それなりに聞いていてくれてるって事だよね。

 あのとき思った「仲良くなりたい」が実現されて、俺は凄く嬉しい。
 でも、その感情がここまで成長するとは思っていなかった。
 それはまだ伝えていない。この場所だけは誰にも渡せないから。想いは、伝えない。



end





お題一個目。ちょたひよ出会い編です。
ちょたの一目惚れ。
構成が頭でっかちなのは、どう終わらせたらいいかわからなくなったせいです。 すみません。

+余談+
クラス数が14組と有り得ない数字なのは、20.5の氷帝学園総生徒数から求めた結果です。
総生徒数1652÷学年数3=一学年生徒数約500(小数点以下切り捨て)
500÷一クラス限度人数40=一学年クラス数13.75→四捨五入14

2004/12/02