旧お題 05休みの日




 12月5日。愛しい若の誕生日。

 今年はちょうど5日が日曜日だから、お泊まりしてもらって祝おうと思っていたのに……俺が風邪ひいて、計画ぶち壊し。
 あーあ。せっかく付き合ってから初めての誕生日なのに、残念。
 これも全部、異常気象が悪いんだっ!!

 若には計画がダメになったことを電話で伝えた。
 「気にするな」と言われても、やはり、誕生日というのは恋人同士にとって重要且つ、大切なイベントであるのですよ。と言ってやりたかったが、その日はそこまで体力がついていかなかった。

 顔を横に向けて見えたのは、テーブルの上にちょこんと置かれた小さな箱。
 今日渡すはずだった若へのプレゼント。やっぱり、誕生日は特別。早くても遅くてもダメな気がする。
 とにかく、今日が早く終わるように祈りながら目を閉じた。
 いっそ、昔流行った歌みたいに、夢の中で会えるまで眠り続けてみようか。
 そんなことを考えながら。



 あー……なんか、おでこひんやりして気持ちいー……。誰か冷えぴた交換してくれたのかな?
 昼間あまり寝過ぎると夜寝られなくなるよね。そろそろ、起きるか……。

「あ、わりぃ、起こしたか」
「……っ! 若っ!!?」

 目を覚ますとそこには愛しい人がいた。

「なんでいるのっ!?」
「いちゃ悪いなら帰る」

 座っていた椅子から立ち上がろうとする若の腕を必死の勢いで掴んで、

「ダメ! 帰っちゃヤダ!!」

と、叫んだ。

「うるさい。……なんだ意外に元気なんだな」

 元の椅子に座ったのを確認して、腕から手を離す。

「だいぶ熱も下がったからね。あとは体力回復するの待つだけ」

 ああ、なんかこのシチュエーション新鮮で良いなぁ。

「お見舞いに来てくれたんだ。ありがと」
「……別に。いきなり予定がなくなったから、来てやっただけだ」
「うん、それでもうれしい」

 ふわりと額に手を置かれる。
 わわっ、若からさわってくれるなんて滅多にないよっ!病気もしてみるものだなー。

「まだちょっと熱い。……なんか食ったか?」
「ん〜……パン半分くらいかな。食欲も戻ってきてないんだ」
「じゃ、薬は飲んだんだな」
「あ、忘れてた」
「おい! お前なぁ、病気の時、食事と薬はセットだろ!?」

 すこし荒々しく立ち上がって、病院からもらってきた薬を用意してくれる。
 さすがに寝たまま薬は飲めないので、ゆっくりと起きあがる。

「時間ちょっとずれたけど飲んどけ」

 差し出された手のひらには錠剤が2つ。ミネラルウォーターのペットボトルと一緒に受け取って、言われたように飲み込んだ。

「飲んだらさっさと寝る」

 押し倒されるようにベッドに倒されて、毛布もかけ直された。
 うわぁあっ!! ちょっと待って!! 何!? 今日はなんでこんなに積極的なの、若!!?
 さっきっから驚いてばかり。だから、聞いてみようか。

「ねぇ、なんでこんなにいっぱいかまってくれるの?」
「あ? あ〜……俺が風邪ひいたとき兄さまがしてくれてたから」

 お兄さま! じゃあなんですか、お兄さまは病気で弱ってる若を押し倒したりしてるんですか!! ……いけない。若がおかしな道に進んでしまう!!
 でも、俺がさわれない分、さわってくれるならそれで良いかも……。物は考えようか。
 あ! 大事なこと忘れてた。

「ねぇ、テーブルの上にある箱、取ってくれる?」

 指さすのは用意していたプレゼント。
 自分で取りに行こうものなら問答無用ではり倒されそうだし、取ってもらおう。

「これでいいのか?」
「うん、ありがとー」

 取りに行っている間にもう一回起きあがる。
 いったん受け取ってから、若の前に差し出した。

「なんだ」
「お誕生日おめでとう、若」

 ぴたりと若の動きが止まる。相変わらず、こういうイベント事に弱いんだよね。そんなところも可愛いんだけれど。

「プレゼントです。受け取ってください」
「あ……ありがとう……」

 少しだけうつむいていても赤くなっているのがよくわかる。

「プレゼントはね、その場で開けてお礼を言うものなんだよ。だから、開けてみて」

 日本の習慣ではないけどね。
 喜んでくれるといいな。喜んで欲しいな。とかれるリボンを見てちょっとドキドキする。
 箱の中に入っているのは四角いケース。さらに、その中には・・・

「……クロスのペンダント……」
「一つの銀を2つに分けて作ったペアペンダントなんだ。はい。それ渡して、後ろ向いて。つけてあげる」
「べっ別に今つけなくてもいいだろ!!」
「つけて欲しいんです。俺も明日からこれの片割れつけるから……若もつけてよ」

 文句を言いながらも後ろを向いてくれて、ベットの端に座る。
 あーうなじキレー……。キスしたいなー……。
 衝動をおさえつつ、ペンダントをつけた後、ぎゅっと抱きしめた。すっぽりと収まってしまう若の身体。

「……気が向いたらな」

 予想通りの答えに苦笑する。
 右肩に顎をのせて、胸元で光る銀を手に取った。そして、そのままクロスにキスを送った。

「ごめんね。せっかくの誕生日台無しにしちゃって。風邪治ったらいっっっぱいお祝いしてあげるから」
「遠慮しておく。これだけで十分だ。おら、さっきより身体熱くなってる」

 するり。と音がするかのように腕から抜け出されて、またしても!またしても!! 若に押し倒されてしまいました。

「よく寝て、もの食って、体力つけて、さっさと治すことだな。じゃ、俺は帰る」
「えー! もう帰っちゃうの?」
「俺がいたらゆっくり養生できねえだろ」
「じゃあさ、じゃあさ! 俺が寝るまで手ぇにぎっててよ」
「……ガキか、てめぇは」
「うん、ガキだから。お願い」

 ベットの端から出した手を軽く握り、毛布の中に戻した。もう片方の手は頭に。ゆっくりと撫でてくれる感触が心地良い。

「目、閉じろ」
「ん……ありがと、若」

 その優しい仕草に再び眠りは訪れてきた。



 目が覚めたとき若がいないのは寂しいけれど、たくさんかまってくれたからいいや。
 早く治すから、治ったらまたちゃんと誕生日を祝うよ。だから、もうちょっと待ってて。



end





何やらちょたをかまっていた若ですが、
これは全てお兄さまがしてくれたことをしたまでです。
手を握りながら、頭を撫でてくれるのもそうです。
これをやられると若はすぐ落ちます。

それから、クロスのペンダントはちょたのおばあさまのお手製。
スウェーデンの金属細工師です。未だ現役。
ちょたがもともとつけているものもお守りとして作り上げました。

……そういうのを話の中に入れられるようにしましょうね、自分。
何はともあれ。お誕生日おめでとう、ひよ。

2004/12/08