視線




 俺はずっと望んでいたものを手に入れた。





 彼は常に上を見ていた。
 上に住まう人達と、その頂点に立つ人物をずっと見ていた。
 自分より下位の奴や同等の奴らなんか、視界にすら入っていなかった。



 確かに、彼は上手かった。
 まともにテニスを始めたのは小学校高学年になってかららしいが、天性の才能かセンスか、テニスの名門、氷帝学園に入ってからどんどんその能力を発揮していった。そして、1年の秋には準レギュラーの位置にまで上りつめていた。
 そんな、彼の姿を−−−その背中をずっと見てきた。
 その頃から、俺の中には、「あいつの近くにいたい。隣に立ちたい」という思いが生まれていたのだと思う。





 俺がやっとの事で準レギュラーに上がった1年冬、彼は伸び悩んでいた。
 俗にいう「スランプ」だ。
 端から見ていても、何かがおかしい。
 彼の背中には苛立ちが見えていたが、それでも、視線だけは静かに上を見つめていた。
 やはり、俺なんか視界に入っていなかった。
 どうしても…俺を見て欲しかった。





 そして−−−2年春。校内戦での成果もあって、俺は彼よりも早く正レギュラーに上がった。
 誰にも受けることの出来ない200km近いサーブ一つで、狭い門をくぐり抜けた。
 正レギュラーになれたことは素直に嬉しかった。けれど、本当に嬉しかったのは…



 睨み付けるようなその視線。
 彼の瞳に静かな炎が灯ったように見えた。全てを焼き尽くす青い炎。



「ちっ…待ってろよ。いつかそこから引きずり落としてやる」

 そんな言葉にすら嬉しさを感じる。
 俺を見て、俺に向かって言葉が紡がれる。俺のためだけに。

「待たないよ」

 嬉しさを隠し、挑発するような言葉を投げつける。
 この言葉が意外だったのか、彼の目が微かに見開かれた。

「待つわけないだろ? ここまで来たら、上を目指すよ」

 彼がずっとしていた視線の真似をする。上だけを見る、お前なんか眼中にないと無言で突きつけるその視線。

「一番上までいったら、待っててあげる」

 最後の締めは、最高の笑顔。

 俺がこういうことを言うとは思ってもいなかったでしょ? 欲しいものを手に入れるためなら何でもするよ。
 ねぇ、俺はお前の中に残った?

 彼は悔しそうに唇をかむ。クセなんだろうけど、それやめて欲しいんだよね。せっかく綺麗な形の唇が傷ついちゃうから。

「…そんなこと言ってられるのも今のうちだ。せいぜい、無駄な足掻きをするんだな」





 やすやすと手放す気はないよ。
 やっと手に入れた地位だもん、命がけで守るよ。
 強くいることがお前を手に入れる条件なのなら。



 だから、その目でずっと俺を映していて。



end





2年ほど前に草稿を書いたこのお品。
はまりたてに近い時のものだろうと思います。
ちょた→ひよ。
準レギュラーとかの時期は当たり前ですが、捏造です。

2006/10/15