「私はあなたにふさわしい」




 クリスマスイルミネーションの華やかな並木道を通り、大型のショッピングモールにやってきた。
 店内はクリスマス一色。ディスプレイはツリーやリースで飾り付けられている。

 彼への誕生日プレゼントはどうしようか? 日用品や実用品の方が無難に受け取って貰えそうだが、それでは華がない。高価なものも彼の嗜好的に考えづらく、リーズナブル……せめて三千円未満で押さえた方がいいだろう。
 雑貨屋などを幾つか見てまわるが、どうにもピンと来るものはなかった。
 近くのコーヒーショップで飲み物を買い、ベンチに腰を下ろした。
 クリスマスも近いせいで物はあふれているが、彼の喜んでくれるものはなんだろう。どうせなら彼の笑顔が見たい。照れたように笑う姿は貴重だから。
 ため息をついて視線を向けた先には、それほど大きくないが存在感のあるクリスマスツリー。なにとなく惹かれ、そのショーウインドウに近づいた。
 近づきガラス越しに見てわかったのだが、このツリーはたくさんの小振りのバラで出来ていた。ツリーの形に花を敷き詰めている。感心したのも束の間、緑色をしたバラの花に疑問を抱く。
 緑色のバラの花など存在しないはず……と、よく見てみれば反対側のガラスに「プリザーブドフラワー入荷しました。」の文字。

「プリザーブドフラワーだ」

 名前を聞いたことがあった。
 特殊加工した手入れも簡単な年単位で楽しめる花。色素を吸い込ませることで本来有り得ない色も作れるという。それくらいの知識しか持ち合わせていないが、実物を見るのは初めてだった。
 花か……と思う。プレゼントとしては定番だが、喜ぶかと言われれば違う気がする。見るだけならいいかと店内に足を踏み入れ、プリザーブドフラワーのポップが立つテーブルの前にやって来た。

「いらっしゃいませ!今人気があるんですよー」

 ドーム型のガラスケースに入ったアレンジメントを眺めていると、若い女性スタッフがやって来た。

「けど、結構高いですね」

 値札が控えめに添えられていたが、けして値段は控えめではない。

「小さめのならお手頃なのがありますよ。贈り物ですか?」

 そういいながら隣のテーブルに促される。先程のアレンジメントより小さいものが並んでいた。ちらりと値段を見ると、いうとおり大分手頃になっている。

「この辺りとか可愛いですよね」

 スタッフが手に取ったのは、ハート型の金網ラックにピンクと赤のバラをあしらったもの。可愛いとは思うが思いっきり女の子向けだ。

「いや、ハートとかあまり可愛いのは……」

 手を勢いよく振りながら断る。さすがにこれを渡せない。
 スタッフはそれを置くと、一段低くなっているところから手のひらサイズのガラスケースを差し出した。

「あとは、こんなケースに入ったのとかどうですか?」
「あ、可愛い」

 素直に感想が出てしまう。
 四角い蓋付きのガラスケースの中に青と白の小さなバラが二つ並んでいる。今までのに比べると大分シンプルだ。

「青と白なら可愛すぎないですよ。ふた付きで取り扱いも楽チンです」
「これ、お願いします!」

 半ば勢いで決めていた。
 花か……と思っていたが、これなら許容範囲だと思いたい。と、いうか自分が買いたくなっていた。
 本来青い色素を持たないバラをめずらしがってくれれば、今回は成功だ。
 誕生日の贈り物用であるとスタッフに告げると、笑顔でラッピングを始めた。

「バラの花言葉って知ってます?」

 ラッピングする手を休めず、スタッフが聞いてきた。器用に動くその手もとをずっと見ていたため、少し反応が遅れたが首を横に振る。

「青バラは以前だと『不可能』とかだったんですが、今は『奇跡・神の祝福』という意味があるんですよー。白バラは『純潔・心からの尊敬』……こんな感じで良いですかー?」

 先ほど「可愛すぎるのはちょっと」と言ったのを考慮してくれたようで、ラッピングにはバラより深い青色の包装紙に純白のリボンを使用している。

「はい!」

 満足のいく仕上がりに自然と笑顔が溢れた。
 代金を支払い、店の出口でプレゼントの入ったクラフト紙の袋を受け取る。

「白バラには『私はあなたにふさわしい』という花言葉もあるんですよ。頑張ってくださいね」

 そう告げ、「ありがとうございました」と頭を下げた。

「は、はい!」

 心を見透かされたようで、明らかに焦った返事になってしまった。会釈をしてからその場を離れ、きらびやかなモールの中に紛れる。

「……きっと好きな子へのプレゼントだと思ったんだろうなあ」

 スタッフが思っているのとはきっと性別が違うだけで、間違ってはいないが。
 歩きながら紙袋を顔の高さまで上げる。
 青いバラと白いバラ。きっと彼に似合う。教えてもらった花言葉もしっくりと来る。



 君が生まれ、出逢えた奇跡。
 君がこの世に生まれたことへの神からの祝福。
 純潔な君へ心からの尊敬を。
 そして―――
 そんな君には俺が一番相応しい。



 彼はこのプレゼントに込められたたくさんの意味に気がついてくれるだろうか。

「へへっ」

 彼の反応を想像しながら家路を急いだ。



end





プリザーブドフラワー可愛くて好きです。
これをモチーフに決めてから花言葉を調べたら、
白バラに素敵な言葉がありました。
純潔とか尊敬とかいってるのに、「私は貴方に相応しい」とは
見かけによらず激しいですね。

お誕生日おめでとう、若様。心からのお祝いを貴方に。

2009/12/10