それはまるで、合図のような。<R-18>




「鯰尾は遠征で、今宵はいないのか」

 壁に掛かる部隊編成表を眺めて、三日月が独り言のように言う。
 部隊編成表は、一から四の数字の後ろに名前の書かれた木の札をかけるように作られていた。遠征に行っている場合は、さらにその後ろに遠征札が付き、行き先も明示される。
 それを同じように並んで見ていた骨喰が視線を感じた方向くと、楽しそうににっこりと笑った太刀の付喪神と目が合った。





 骨喰は寝る支度を調えた姿で、太刀屋敷の廊下を歩いていた。
 本丸の北側には、刀剣男士たちの屋敷がある。
 基本的に刀種ごとに分かれているが、個人に宛がわれた部屋と雪隠程度しかない簡易なものだ。庭に面し長く伸びる廊下は全ての刀種の屋敷と本丸へ繋がっている。
 目的の部屋に辿り着き、明かりを漏らす障子を前に二度大きく深呼吸をする。
 骨喰と同じ部屋を使っている鯰尾が遠征で日を跨ぐとき、三日月は彼を自室へと誘う。
 誘い始めた当初は、三日月の知る過去の骨喰に関する話や日常の語らい、はたまた囲碁や将棋の娯楽などをして過ごしていた。
 しかし、いつだったかそれが変化する。三日月が骨喰に対する恋情を伝え、身体を交わしたのだ。
 骨喰が今思えば、勢いであったようにも感じ得る。だが、三日月と身体を重ねる行為は嫌だとは思わないし、嫌いかと問われれば否と断言出来るほど、好意を持っている。それが、たくさんの兄弟へ抱く好意と違うことも理解していた。何より、自分を愛しているという三日月の愛情に包まれているのは、とても心地よかった。
 以来、骨喰の兄弟がいない日は、太刀の部屋へと訪れ、関係を持つような習慣になっていた。

「……三日月」

 意を決し障子をほんの少しだけ開け、骨喰は部屋の中を窺う。そして、敷かれた布団の上に座っている家主の背中へ声をかけた。

「おお。待っていたぞ」

 声に気がつき、淡い笑みを浮かべた三日月が振り返った。
 迎えられた骨喰は人一人分だけ開けた障子から、そっと細い身体を滑り込ませる。後ろ手で音もなく閉め、その場に佇んだ。
 こちらを見つめたまま動こうとしない様子に、部屋の主は首を傾げる。

「どうした? 近う寄れ」

 そう言って腕を伸ばし、側へ寄るように促す。
 骨喰は依然訝しげな表情を浮かべたまま、ゆっくりと近づいていく。そして、伸ばされた手を取り、ぽすんと三日月の胸へ身体を寄せた。

「ははは、一度言ってみたい台詞だったんだ」

 腕の中に収まった愛し子を着物の袖で閉じ込めるように抱きしめ、さらりとした髪を撫でる。

「そうか。なぁ、三日づ……ん、」

 骨喰の言葉を遮るように、三日月は髪を撫でていた手を白い顎に当てて上を向かせた。愛しさを溢れさせ微笑む彼の顔が近づいてくるのに気がついて、骨喰が目を閉じる。
 柔らかい唇が重ねられた。小鳥のような啄みを二度、三度繰り返し、一度離れたと思ったら、吐息を飲み込まんばかりに深く口づけられる。いつの間にか骨喰の頭は手で押さえられていて、顔の角度を変えながら、差し込まれた三日月の舌が口内をまさぐっていく。受け止めている彼も、おずおずと絡ませ、お互いの唇と口腔を堪能する。
 酸欠になりかけた熱い吐息と共に離された唇。微かに覗いている舌同士を繋いでいた銀糸は頼りなく、途切れた。

「今宵は少し趣向を変えてみようと思うんだが、良いか? 骨喰」
「……? ああ……」

 情熱的な口付けとは裏腹に、優しく髪を撫でる三日月を見上げながら、骨喰が頷いた。





「……っ……」

 骨喰はあられもない姿で拘束され、布団の上に転がされていた。
 紫色の印象的な瞳はさっきまで着ていた寝巻きの帯で隠されていて、両手首は、金色の房の付いた頼りない紺色の紐で縛られ、背中側で一まとめになっている。
 手首を拘束する紐は、三日月の髪飾りだ。骨喰が本気で抵抗すれば、普通の紐で出来たそれをちぎることなど造作もない。しかし、「ひとつしかない大切なもの」と言われてしまえば、そんなもので拘束するなと思いつつも、壊さないように気を使ってしまう。
 仰向けでは陰茎を、うつ伏せでは尻を、この姿を眺めているであろう三日月に晒すことになるため、横向きで身体を縮こませていた。

「!? ……ん、…………ぁ」

 視界は遮られているものの、三日月の気配と視線を骨喰は感じている。
 視線から逃れたい思いからもそり動くと、この布団を使用している人物の香りを感じ取ってしまった。一度気がついてしまえば、呼吸をする度に体内に取り込まれていく。その香りにあてられたように、身体の内側に熱が灯る。それをなんとかやり逃すために、もぞもぞと足を動かしていた。

「良い眺めだな」

 そんな骨喰の様子を、三日月は少し離れた文机に肘をついて眺めている。全裸で横たわる彼を視姦し始めてから、既に十数分が経過していた。
 彼の姿は寝る間際であるのにも拘わらず、武装を解いたいつもの着物姿だった。手甲の下に付けている黒色の手袋もそのままだ。これが、骨喰が部屋に入った瞬間訝しんだ理由である。

「な、んでこんなこと……」
「お前も了承したではないか。今宵は少し趣向を変えると……」
「っあ!」

 衣擦れの音を立てながら立ち上がり、戸惑う骨喰の横に腰を下ろす。そして、露出された肩に触れると、そこに電気が走ったかのように派手に身体をびくつかせた。
 構わず三日月は彼の肌に手を這わせていく。自身の手袋の黒と骨喰の素肌の白さの対比が、実に美しい。

「その名のとおり白く綺麗な身体だ。傷ひとつない」

 三日月は何度もこの肢体を見ているが、飽きることはない。戦闘で受けた傷も、手入れ部屋で綺麗に直される。この肌は姿を保っている限り、永劫変わることはないだろう。そして、劣情の熱にほんのりと赤らんでくるのも時間の問題だ。

「っぅ……!」

 直接敏感な場所ではなく、肩や腕、腰を触れられているだけなのに、骨喰はどんどんと追い立てられているような感覚に陥っていた。いやいやするように首を横に振れば、今度は香りに煽られる。

「!?」

 突然、脇の下に手を差し入れられ、骨喰の身体が起こされた。そして、浮かび上がった身体は、あぐらを掻いた三日月の上に降ろされる。
 足の間に形の良い尻が入り込み、横抱きにした背中を着物に包まれた腕が支えた。

「はは、まるで人形だな。ん……?」

 されるがままの骨喰の姿に、率直な感想が口をつく。
 すりあわせるように動いた足の間に何らかを視認した三日月は、太ももの内側に手を添えて足を開かせた。途端、飛び出したのは骨喰自身。完全に勃ち上がっているわけではないが、そこは確実に快楽を得、形作り始めている。

「まだ直接触れていないのに、反応しているぞ?」

 微笑ましい様子に、微笑の吐息を含んだ声で教えてやる。伝えずとも、骨喰自身もそれを理解しているであろうが、敢えて言葉にする。

「!! そ、れはっ……」
「視覚と触覚を閉ざしているから、感覚が鋭くなっているな。故に、些細な刺激でも…………」

 視覚を閉ざすときに、露出させていたその耳を甘噛みする。

「ん、っあっ!! や、やめ……!」

 何処へどんな刺激が来るか分から無い骨喰は、触れられた場所に全ての神経が集中し、反応がいちいち大きくなる。
 不安定な頭は目を覆っている帯の重さに、自然と顎を上げさせた。それを良しとしたように、三日月の舌が耳から頬を伝い、顎もとまで到達する。さらけ出されたやはり白い首筋にきつく吸い付けば、淡い紅色の一片が舞う。

「んぅ───!」

 びくんっ! と、激しく骨喰の身体が波打つ。背中を支えていた左手が脇の下から伸び、三日月の前に晒されている淡い色の乳首に触れた。敏感になりすぎた身体は、そこをつんと勃ち上がらせている。

「ここだけでいけるか?」

 過剰な反応を見た三日月は、つうっと唇をもう片方の胸へと移動させて、ねっとりと舌を這わせた。こちらも固くなっていて、舌で突いたり、唇に含んで吸い上げてみたりする。
 もう一方は、指先での愛撫を施す。摘み、こりこりと指で捏ね回し、人差し指でその色の変わっている周辺をなぞった。

「んん、っう……! ぁぁっ……!! う、ぅんっ!!」

 左右で違う愛撫をされ、抵抗らしい抵抗が出来ない骨喰は頭を振りながら快楽をやり過ごそうとする。腰にゾクゾクとした感覚が這い上がってくるが、頂点へ到達するにはまだ遠い。意識とは違い、彼の身体は快楽を追っている。三日月の唇と指に押しつけるように背中を反らせて、さらなる快楽を呼び込もうとしていた。

「っ、はあっ……。さすがにまだ無理か」

 三日月としては、強請られているのなら果てさせてやりたいのだが、まだ身体の開発が足りないようだ。なに、焦ることはない。いくらでも慣らしていく機会はある───そう、怪しく微笑んだ
 自らの唾液で濡れた口元を拭い、力なく開かれた骨喰の足の間を眺める。そこは明らかに先程よりも勃ち上がっていた。
 そっと陰茎を手で包み込むと、またしても跳ねる白い身体。三日月はふっと口元に笑みを浮かべ、先走りで濡れたそれを上下に擦る。手袋に覆われた爪の先で、先端の窪みを刺激することも忘れない。そして、同時に左手の乳首責めも再開させた。

「ぁあっ!? みっ、……か、て……! ぁっ、いゃ、だあっ……!! っふぅ、んんっ!!?」

 素手ではない、手袋に隔てられたいつもとは違う、もどかしいような刺激が胸と臀部に襲いかかる。口をついて出る喘ぎは口付けによって塞がれた。酸素を求めて口を開けば、するりと舌が絡め取られる。
 なんと器用なものかと骨喰のまだ幾ばくか理性の残る頭で、感心していた。

「ふはぁ……ん、骨喰よ。身体はずいぶんと素直に、良い反応を見せているぞ……」

 高くなった喘ぎ声に「もうすぐか」と呟き、陰茎を擦っている手の動きを激しくする。

「んっ───!!」

 びくんびくんと腰を揺らしながら、身体を屈めて骨喰は頂点に到達した。ようやく開放された精液は、三日月の手によって先端を抑えられていたが、僅かな隙間から飛び出していった。骨喰の白濁は三日月の手袋と自分自身の腹を汚す。

「果てるならそうと言わなければ駄目ではないか」

 分かりきっていたことを優しく咎め、荒い息をしている骨喰の脳天に唇を落とした。

「っはぁ……ぁ……。みか、ずき。手袋が……」
「ん、手袋? ああ、素手とはまた感覚が変わるだろう。良かったか?」
「ふぅ……んっ、……っぁ、汚れ……から」

 息も絶え絶えに骨喰は言葉を紡ぐ。
 自分は全裸にも拘わらず、三日月はいつもの服装のまま。抱きかかえられているのだから、このままこの行為が続けば、今みたいに精液や汗で汚してしまうだろう。手袋ならまだしも、彼の着物は絹素材で手入れが難しい。
 もっともらしい考えよりも先に来るのは、背徳感だ。しっかりと着込んだ三日月に抱かれて絶頂へと導かれる、一糸まとわぬ乱れた自分の姿は容易く想像がつく。自分の服を剥いたのは紛れもない三日月なのだが。

「お前のが染みてしまったな。これを外せと?」

 先走りや精液の付いた手を骨喰の口元に運ぶ。唇に触れた瞬間、何を入れられるか分からず大きく開かれた口に、笑みを深くした三日月がそこに指先を差し入れて、舌に触れた。
 汚してしまった手袋の先を軽く舐め、手袋だけを噛む。それに気づいた三日月が手を引くとするり、手袋だけが、口に残った。

「ふうん……ん、ぁあっ」

 晒された素手で、まだ甘く震えている骨喰の太ももをなで回す。
 彼の白い肌には、刀身に彫り込まれたものがその肉体にも刻まれている。左太ももから左脇腹にかけて巻き付く倶利伽羅。右の背側の脇腹には、不動明王が存在を示していた。

「確かに、お前のしっとりとした滑らかな肌を堪能するのは、こちらが良い」
「ぁっ……。俺も、あんたの…………肌に触れ、たい。顔がぁっ……見れな……なら、なおさ、ら」
「……っ!」

 絹ごしではなく、直接肌の温もりを感じたいと告げる骨喰に、三日月は思わず目を見開いた。
 自分の手で乱れる彼の痴態をずっと見ていたにも拘わらず、三日月を求める何気ない発言が一番心に来る。滅多に好意を言葉にしない相手なら尚のこと。

「あまり煽ってくれるな、骨喰。わかった。少し待っていてくれ」

 思わず緩む表情が、相手に見えていないことを三日月は幸いと思う。感覚の鋭くなっている彼は、声だけでも自分が感じている喜びに気づいてしまうだろうか。
 支えていた手で頬を撫で、一層力の抜けてしまった骨喰の身体を布団へと横たえた。

「はぁ、はぁ……ぅぅん……」

 仰向けだった身体を横向きに変え、呼吸を整えている間も骨喰は三日月の気配を探っていた。しゅるり……と聞こえる布擦れの音が服を脱いでいるのだと理解すると、一旦吐き出したはずの熱がまた舞い戻ってくる。
 穏やかな宝剣の存外鍛えられた肢体を思い出し、腰にぞくりとした感覚が走った瞬間、うつ伏せに転がされた。
 骨喰の背中に触れるのは、覆い被さった三日月の生肌。インナーを残してあるため、全てを脱いだわけではないが、骨喰の希望する肌のふれ合いはこれで出来る。

「これで良いか? まだ体が熱いな、続きを……しようか」
「!! ……!」

 三日月の身体が発する熱が離れていくことを感じ、次はどこかと骨喰の神経が身体中に研ぎ澄まされる。彼が触れたのは柔らかくはない、しっかりと引き締まった尻。そこに、柔く噛みつかれた。

「腰を、膝をついて腰をあげてくれ」

 両手で双丘を包み、微かに付いた歯形をじっくりと舐めると、骨喰の腰が震える。

「───っ! で、出来な……」
「くはないだろう?」

 三日月が優しく諭すと、息を吸い込む音が聞こえた。
 骨喰の手は拘束されているため、顔と肩を支えに膝を曲げてゆっくりと腰を上げる。この格好は獣のようで恥ずかしさが増す。秘部を晒し、その中に打ち込まれる熱を期待しているような浅ましい姿だと思っているのに、彼の情欲は膨らむばかりだ。

「良いぞ良いぞ。骨喰は偉いな」

 言うとおりに出来たと褒める三日月の手には、一本の瓶が握られている。その蓋を開け、高く掲げられた尻の谷間に流す。ドロリとした液体に腰が反応し、震えた。

「……ぁ! な、なに……を?」
「すまない、冷たかったか?」

 割れ目を伝っていく液体を指で拭い、窄まっている後口に塗りたくる。両手を使ってそこを開けば、濡れそぼっている骨喰の入り口がひくひくと動いていた。
 瓶に入っているのは、潤滑液───いわゆる、ローションと呼ばれるものだ。自分を受け入れる骨喰に負担をかけたくないと相談した主から、数日後無言で渡されたものである。

「なあに。心配ない、潤滑液だ。ほら、今にも飲み込みそうだぞ」

 入り口に指先を充てると、その指を中へと導くような動きを見せた。誘われた三日月は遠慮無くその指を一本挿入させる。

「つぅ……!!」

 粘度の高い潤滑液の助けを受け、難なく入り込んだ一本の指を中は歓迎する。広げるような動きをしながら抜き差しを繰り返し、二本、三本と入り込んだ指を増やしていく。

「ぁ、……あぅ、んぅ……。はぁっ……! ぁみ、かうっ……!!」

 三日月の骨張った三本の指が後口を犯し、窄まったそこを解すように動いていた。ピストン運動に加え、指を内部で曲げて前立腺を探っている。僅かに盛り上がったそこを重点的に攻めれば、骨喰は身体をびくびくと振るわせながらながら、布団に顔を埋めて声を殺し喘ぐ。
 再びの絶頂へと向かっているのは骨喰だけではない。彼の感じ入る姿を見て、愛撫をしている三日月自身も昂っていた。

「……骨喰、もう我慢できそうにないんだが、入れても良いか?」

 深くねじ込んだ指を引き抜いて覆い被さり、熱を持った声で彼の耳元で囁く。
 既に何も入っていないのにも拘わらず、すっかり解され開きっぱなしの後口に触れた切っ先の熱に、ぞくりと骨喰の腰が震えた。

「っ…………ん」

 一旦間をおいてから、肯定で骨喰は小さく頷いた。許可に対する礼のように一度ぎゅっと細い身体を抱き締めてから、三日月は身体を起こす。
 臀部を掴み、解した菊座を開いてすっかり勃起した陰茎を何度か行き来させる。そうして、自身からこぼれる先走りと潤滑液が混ざりあった切っ先を宛がった。
 瞬間、侵入されることを想像し、強ばる骨喰の身体。そんな姿に笑みを浮かべ、宥めるように尻を撫でる。そして、ゆっくりと腰を進めていった。

「んんっ! ふぅ……んっ……あ、ああっ!!」

 熱杭に狭い場所を押し広げられる、なんともいえない衝撃と快楽に骨喰は襲われる。いつもより感覚が鋭くなっているせいで、それの動きや脈動まで理解できるような気がして、上擦った声が漏れてしまう。
 どうしても受け入れる側の負担が大きく、苦しくならないように三日月は骨喰の呼吸に合わせて時間をかけ、狭い肉壺に自身を収めた。

「はぁっ、潤滑液のおかげで、滑りが良い……。全部、入ったぞ」

 上体を倒し、身体を密着させて耳をはみながら伝える。滑りはよいものの、きゅうきゅうと締めつけてくる感覚はいつも以上だ。
「あ、あ、みかづ……」

 浅く腰を動かせば、上がる喘ぎ声。白い髪から露わになったうなじに顔を寄せた。口付けを落とし、舌を這わせる。

「お前の良い匂いがするな」

 色づいた身体は汗ばんで微かなしょっぱさと甘さが混ざりあう。この部屋に来る前に入った風呂の石鹸の香りではなく、彼自身が発する甘い香りが三日月をさらに酔わせる。

「ひゃ、ぁんっ! あ───!?」

 首だけでは飽きたらず、肩や背中にも赤い花びらを散らし、拘束した腕をつかんで身体を引き上げた。

「ふっ……そんなに締め付けられたら、長くは持たないな」

 急に体位が変わったせいで、三日月の陰茎を締め付ける力が増した。
 膝立ちの状態で下から突き上げられるのと同時に、腕を引かれて腰を落とされる。拘束されて、腕を掴まれているため、骨喰はされるがまま、熱に突き上げられるままだ。

「あ、っ……! ぃ……や、だ……!! もぅ、ぁぁっ……あ、ん!!」

 ぶつかり合う肌の音とはっきりと感じる三日月の陰茎が劣情をさらに掻き立て、己から発せられる甘い声が理性に霞をかける。揺さぶられる身体は、既に快楽を追うことしかできなくなってしまっていた。

「んふぅ、っ……みか、づきぃっ!!」

 泣きそうな喘ぎ声をあげながら、未だ閉ざされた目で振り返る。

「はぁっ、達しそう、だな?」

 激しかった動きを止めて、情欲を受け止める細い身体を抱き締めた。
 腕に収まった骨喰は、荒い吐息を繰り返しながら素直に何度も頷く。受け入れている下の口はひくひくと、さらに奥まで誘い込むような蠢きをしていた。
 三日月を求める骨喰に、これ以上抗うことはできない。抱きしめた時に、肌が密着しないのを気にして、腕の紐を解いた。

「ああ、俺もだ。共に果てようか……っ!」

 きつく抱き止めたまま布団へと押し倒し、後背位で律動を再開する。密着して腰だけを動かし、侵入してはいけない場所を抉るように突き上げる。
 すでに限界間近だった骨喰は、布団に顔を押し付けて声を隠しながら、迫った絶頂をたぐりよせる。揺さぶられる身体に合わせて、いつの間にか自分の腰も動いていた。
 三日月が腰を振りながら口で目隠しの帯の結び目を解く。止まない激しい動きに、何重にも巻かれていたそれが崩れ、久しぶりの明るさを骨喰が感じた瞬間、目の前がホワイトアウトした。

「んっ、……ぁぁっ! や、も……もぅ! ……っくぅぅ───!!」

 身体をふるわせながら達する。骨喰自身の胸と腹、回されている三日月の腕に熱い白が撒き散らされる。
 絶頂の強烈な締め付けに、三日月も骨喰の狭い胎内に熱い白濁を吐き出した。びくびくと下半身を揺らしながら、溜まった精液を注ぎ込んでいく。

「……骨喰、骨喰よ。大丈夫か?」

 乱れた呼吸を整え、腕の中でぐったりしている骨喰に話しかける。中途半端にほどけた帯を取り外し、いたわるように頭を撫でた。
 三日月の射精が収まるころには、入りきれなかった白濁が溢れ出てきて、骨喰の太ももを汚していた。

「……ん、ああ……。みか……づき、」

 ほんのりと微笑して振り返った骨喰に、開放したばかりの三日月の熱がぶり返す。

「すまないが、もう少し付き合ってくれ。お前の顔を見ながら、したい」

 骨喰が何か言いたそうな事を理解した上で言葉を遮り、身体を反転させた。下半身はまだ繋がったままで、突然の刺激に嬌声が上がる。
 召喚され肉体を得てから知ったこの快楽。何度抱こうと、何度むさぼろうと愛しい骨喰を楽しみ尽くすことはない。

「ちょ、と……待て! そもそもっ、目隠ししたのはあんたの……! 少し休ませ……!!」
「待てない」

 両手を骨喰の顔の横につき、見下ろしていた三日月は、彼の切なる訴えを唇で塞いだ。




end





夏っぽいほのぼの話を書こうかと考えていました。
が、何故か出来上がったのはえちぃ話。
……夏はえちぃ本が増えるとのことなので、仕方ないですね!

2015/08/14 発行
2017/01/31 サイト掲載